【加工肉とは何か】ハム・ベーコン・ソーセージが対象になる理由
加工肉とは、肉を塩漬け、塩せき、発酵、燻製などの方法で処理し、保存性や風味を高めた食品を指す。
単に加熱した肉や切り分けた肉を意味するわけではない。保存や味付けを目的とした加工工程が定義のポイントになる。
世界保健機関(WHO)が2026年9月23日に更新した解説では、加工肉の代表例として、ハム、ソーセージ、フランクフルト、コンビーフ、ビーフジャーキー、缶詰肉などが挙げられている。
ハム・ベーコン・ソーセージはなぜ加工肉なのか

代表的な加工肉と製造工程
ハム
豚肉などを塩漬け・塩せきし、熟成や加熱などの工程を経て作られる。保存性や風味を高める処理が加工肉の定義に該当する。
ベーコン
豚バラ肉などを塩漬けし、燻製などの工程を経て製造する。塩漬けや燻製が加工肉に該当する理由となる。
ソーセージ
肉をひき肉にして調味し、ケーシングに詰める。製品によって塩漬け、発酵、燻製などの加工工程が加わる。
ここで注意したいのは、加工肉かどうかは食品添加物の有無だけでは決まらないことだ。保存料や発色剤を使用していなくても、塩漬けや燻製などの工程を経ていれば加工肉に該当する場合がある。
つまり、「無添加ハムなら加工肉ではない」「保存料不使用のベーコンなら発がん性の問題がない」と単純に判断することはできない。
一方、肉をそのまま焼いたものや、一般的な生肉は加工肉とは区別される。加工の有無と肉の種類を分けて考えることが、リスクを理解する第一歩になる。
【IARCグループ1の真相】毎日50gで大腸がんリスク18%増加とは?

加工肉の発がん性をめぐる議論の出発点となったのが、2015年10月のIARCによる評価だ。
IARCはWHOの専門機関で、食品や化学物質、環境要因などが人のがんの原因になるかどうかを科学的に評価している。
加工肉がグループ1に分類された2015年の評価

2015年10月26日、IARCは加工肉をグループ1、赤肉をグループ2Aに分類した。
評価には10か国から集まった22人の専門家が参加し、疫学研究、動物実験、発がんメカニズムなどの科学的証拠を総合的に検討した。
加工肉については、主に大腸がんとの関連を示す疫学的証拠が十分にあると判断された。
ここで誤解されやすいのが、グループ1という分類の意味である。
グループ1は、発がん性が人に対して認められるだけの科学的証拠があることを示す。発がん物質としての危険度や、一定量を食べた場合にがんになる確率を順位付けしたものではない。
そのため、加工肉とタバコ、アスベストが同じグループ1だからといって、健康への影響が同程度という意味にはならない。
50gで18%増加する数字の正しい読み方
WHOが紹介している10件の研究の分析では、加工肉を毎日50g食べるごとに、大腸がんの相対リスクが約18%上昇すると推計された。
この数字を理解するには、相対リスクと絶対リスクの違いを知る必要がある。
例えば、ある集団の基準となるリスクが5%だったと仮定した場合、相対リスクが18%増加すると、計算上は5.9%になる。
つまり、増加幅は0.9ポイントであり、がんになる確率が18ポイント上がるわけではない。
加工肉50g・18%の意味50g
毎日の加工肉摂取量18%
大腸がんの相対リスク増加
※毎日継続して50g摂取する場合の疫学的推計。個人の発症確率を直接示す数値ではない。
また、50gは一度に食べる量ではなく、毎日継続して摂取する量として示されたものだ。たまにベーコンを食べた場合に、その人の発がんリスクが直ちに18%増えるという話ではない。
WHOの2026年9月の解説でも、加工肉の摂取量が多いほどリスクが高くなる傾向が説明されている。摂取量と頻度の両方が重要になる。
【日本人の研究を検証】加工肉と大腸がんの関係はどうだった?
海外の研究で加工肉の発がん性が確認されたとしても、日本人にも同じ程度の影響があるとは限らない。
日本人は欧米諸国と食生活が異なり、肉類の摂取量や魚・大豆製品の摂取状況などにも違いがある。
この問題を検証するうえで重要なのが、国立がん研究センターによる日本人のコホート研究と、その後の複数研究を統合した分析だ。
2011年のJPHC研究では明確な関連が確認されなかった
国立がん研究センターの多目的コホート研究(JPHC研究)では、45~74歳の男女約8万人を対象に、肉類の摂取量と大腸がんの発生率との関係を調べた。
追跡期間中に確認された大腸がんは1,145例だった。
研究結果では、女性の赤肉摂取量が多いグループで結腸がんリスクが高くなった一方、加工肉については男女ともに統計的に有意なリスク上昇は認められなかった。
この研究では、日本人の一般的な摂取量の範囲における加工肉の影響は、ないか、あっても小さいと説明されていた。
2019年の6つのコホート研究を統合した分析
その後、国立がん研究センターの研究グループは、日本の6つのコホート研究を統合したプール解析を実施した。
対象者は合計356,038人。JPHC研究のほか、JACC研究、宮城県コホート研究、大崎国保コホート研究、高山研究などが含まれている。
分析では、加工肉の摂取頻度が最も高いグループ、つまりほぼ毎日食べる女性で、結腸がんリスクの上昇が示された。
男性では同様の加工肉との有意な関連は報告されていない。結果には男女差があり、性別や大腸がんの発生部位によって影響が異なる可能性も示された。
日本人の加工肉研究を時系列で比較
| 時期・研究 | 対象・主な結果 | 読み取れるポイント |
|---|---|---|
| 2011年・JPHC研究 | 約8万人。加工肉による有意なリスク上昇なし | 日本人の平均的摂取量では影響が小さい可能性 |
| 2014年・系統的レビュー | 加工肉による大腸がんリスク上昇の可能性 | 日本人の研究を総合すると関連が示唆される |
| 2019年・6コホート統合解析 | 356,038人。ほぼ毎日食べる女性で結腸がんリスク上昇 | 摂取頻度と性別による違いに注目 |
| 2026年5月・研究班の評価 | 女性で加工肉による大腸がんリスク上昇の可能性あり | 日本人の研究を踏まえた最新の評価 |
| 2026年9月・WHO解説更新 | 50g/日ごとに相対リスク約18%増加 | 国際的な疫学的証拠も引き続き重視 |
これらの研究は、対象者や調査方法、摂取量の区分、がんの部位などが異なる。2011年の結果と2019年の結果は、必ずしも矛盾するものではない。
特に、2011年の研究では加工肉の摂取量が比較的少ない日本人を対象としていた。一方、2019年の研究は6つのコホート研究を統合しており、より大きな対象集団から摂取頻度と部位別の関連を調べている。
2026年5月26日に改訂された国立がん研究センター研究班の「日本人のためのがん予防法」では、日本人を対象とした研究に基づき、女性ではハムやソーセージなどの加工肉の摂取によって大腸がんリスクが高くなる可能性があると評価している。
したがって、日本人だから加工肉の影響を受けないと考えるのも、海外の18%という数値をそのまま個人に当てはめるのも適切ではない。日本人の研究でも、摂取量や頻度を意識する必要性が示されている。
【加工肉と赤肉の違い】大腸がん・胃がんリスクは同じなのか?
加工肉と赤肉は混同されやすいが、IARCの評価は異なる。
赤肉とは、牛、豚、羊、馬、山羊など、哺乳類の筋肉部分を指す。鶏肉や七面鳥などの家きん類は含まれない。
一方、加工肉は肉の種類ではなく、塩漬け、燻製、発酵などの加工方法に基づく分類である。
IARCによる加工肉と赤肉の比較
| 比較項目 | 加工肉 | 赤肉 |
|---|---|---|
| 主な例 | ハム、ベーコン、ソーセージ | 牛肉、豚肉、羊肉 |
| 分類 | グループ1 | グループ2A |
| 発がん性の評価 | ヒトへの発がん性あり | おそらくヒトへの発がん性あり |
| 大腸がんの証拠 | 十分な証拠 | 限定的な証拠 |
| 摂取量の国際的な考え方 | できる限り少なくする | 調理後の重量で週350~500g以内がWCRFの目標 |
この違いは、赤肉が安全で加工肉だけが危険という意味ではない。どちらも摂取量が多い場合には大腸がんリスクとの関連が問題になるが、科学的証拠の強さが異なる。
加工肉は胃がんの原因にもなる?
大腸がん以外で気になるのが胃がんだ。
国立がん研究センターの2026年5月の研究班資料では、加工肉の摂取によって胃がんリスクが高くなる可能性が限定的に示唆されると説明されている。
ただし、WHOの2026年9月の解説でも、胃がんとの関連を示す情報はあるものの、確定的な結論を出すには証拠が不十分とされている。
つまり、加工肉と大腸がんの関係は科学的に強く支持されている一方、加工肉と胃がんの関係はまだ同じ水準ではない。
胃がんについては、塩分の多い食品やピロリ菌感染など、ほかの要因も考慮する必要がある。
【亜硝酸塩の発がん性】ハムやソーセージの添加物は本当に危険?
加工肉の話題になると、必ず取り上げられるのが亜硝酸ナトリウムだ。
ハムやソーセージの原材料表示に「発色剤(亜硝酸Na)」と書かれているのを見て、不安を感じる人もいるだろう。
しかし、亜硝酸塩そのものと、加工や消化の過程で生成する可能性がある発がん性物質は区別して考える必要がある。
亜硝酸ナトリウムには食品を守る役割もある
亜硝酸ナトリウムは、食肉加工品に使用される食品添加物の一つだ。
主な役割は次のとおり。
- ハムやソーセージの色を安定させる
- 食肉製品特有の色や風味を保つ
- ボツリヌス菌などの増殖を抑える
- 食品の保存性を高める
特にボツリヌス菌は、強い毒素を産生することで知られている。亜硝酸ナトリウムには、この菌の増殖を抑える食品衛生上の役割がある。
問題になるのはニトロソアミン類
農林水産省の解説によると、亜硝酸塩とアミン類が反応することで、ニトロソアミン類が生成する可能性がある。
この反応は食品の加工・保存過程だけでなく、一定の条件下では体内でも起こり得る。
ニトロソアミン類の一部には、遺伝毒性や発がん性を持つものがある。
ただし、すべての亜硝酸塩が発がん物質というわけではない。亜硝酸塩の存在だけで、食べた食品が直ちに危険になると判断することもできない。
食品安全委員会は、亜硝酸ナトリウムについて、食品の色を保つだけでなくボツリヌス菌の増殖を抑える働きがあることを説明している。
したがって、添加物を一律に危険視するよりも、加工肉の摂取量そのものを管理することが現実的な対策になる。
【加工肉はどれくらい食べていい?】2026年の摂取目安と現実的な対策
最も気になるのは、結局どれくらいなら食べてもよいのかという問題だろう。
2026年11月現在、加工肉について「1日何グラムまでなら大腸がんのリスクがない」と証明された安全基準は存在しない。
WHOの2026年9月の解説でも、加工肉の摂取量が増えるほどリスクが上がると説明されている一方、安全な摂取量を確定できていないとしている。
また、WHOは動物性食品の適切な摂取量に関するガイドラインを策定中としている。
国際的な推奨は「加工肉はできるだけ少なく」
世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)は、加工肉について「ほとんど、あるいはまったく食べない」ことを推奨している。
赤肉については、週350~500g程度(調理後の重量)を上限の目安としている。
ただし、これは赤肉の推奨量であり、加工肉に週500gまで食べてよいという意味ではない。
日本人の食生活を踏まえた国立がん研究センターの評価では、加工肉と赤肉は日本人のがん予防法の主要な推奨項目からは外れているものの、研究班は女性における大腸がんリスク上昇の可能性を認めている。
日常生活で実践したい5つの対策
1. 朝食のハムを毎日の定番にしない
毎朝ハムやベーコンを食べているなら、納豆、卵、焼き魚などと交互にする。食べる頻度を減らすことから始めたい。
2. 魚料理を取り入れる
焼き魚、煮魚、刺身などを食事の選択肢にする。肉料理だけに偏らない食生活を意識する。
3. 大豆製品を活用する
豆腐、納豆、枝豆などを取り入れる。加工肉を減らす際も、たんぱく質を不足させないことが大切だ。
4. 野菜や食物繊維を十分に取る
野菜、豆類、海藻、きのこなどを組み合わせ、食生活全体のバランスを整える。
5. 食生活全体を見直す
加工肉だけでなく、飲酒、喫煙、運動不足、体重管理なども含めてがん予防を考える。
なお、肉を強く焦がすような調理では、ヘテロサイクリックアミンや多環芳香族炭化水素などの化学物質が生成する場合もある。加工肉の摂取量とは別の問題だが、過度な焦げを避けることも食生活を見直す際のポイントになる。
大腸がんの予防では、食事だけに頼らないことも大切だ。年齢や自治体の制度に応じて大腸がん検診を受け、便通の変化や血便など気になる症状がある場合は医療機関に相談したい。
【加工肉とがんに関するよくある質問(FAQ)】
Q1:ハムやベーコンを毎日食べると必ず大腸がんになりますか?
A1:必ず発症するわけではない。加工肉の摂取は大腸がんリスクを高める要因の一つだが、発症には年齢、遺伝、生活習慣など複数の要因が関係する。毎日食べる習慣がある場合は、頻度や量を減らすことを検討したい。
Q2:加工肉を50g食べると、がんになる確率が18%上がりますか?
A2:違う。18%は大腸がんの相対リスクの増加率であり、個人の発症確率が18ポイント上がるという意味ではない。毎日50gを継続して食べる場合についての疫学的推計である。
Q3:亜硝酸ナトリウム不使用のハムなら安全ですか?
A3:発色剤を使用していないことだけで、加工肉としての発がん性の問題がなくなるわけではない。加工肉の分類は製造工程にも関係する。原材料表示だけで安全性を判断せず、摂取量や頻度を考えることが大切だ。
Q4:加工肉と赤肉では、どちらが危険ですか?
A4:IARCの科学的証拠の分類では、加工肉がグループ1、赤肉がグループ2Aとなっている。加工肉の方が発がん性を示す証拠が強い。ただし、分類だけで個人の危険度を直接比較することはできない。
Q5:加工肉は完全に食べない方がよいのでしょうか?
A5:完全に禁止しなければならないということではない。国際的な予防指針では加工肉をできるだけ少なくすることが勧められている。毎日の習慣を見直し、魚や大豆製品などを組み合わせる方法が現実的だ。
まとめ:加工肉のがんリスクは摂取量と頻度を意識して判断する
2026年11月現在、加工肉が大腸がんの原因になるという科学的証拠は確立されている。ハム、ベーコン、ソーセージなどがIARCのグループ1に分類されているのは、そのためだ。
毎日50gの加工肉を食べると大腸がんの相対リスクが約18%増えるという数字も、10件の疫学研究をもとにした推計であり、WHOが2026年9月に更新した解説でも引き続き紹介されている。
一方、日本人を対象とした研究では、2011年の約8万人の調査で加工肉による明確なリスク上昇が認められなかった一方、2019年の大規模な統合解析では、ほぼ毎日加工肉を食べる女性で結腸がんリスクの上昇が示唆された。日本人の摂取量や性別による違いも考慮する必要がある。
今後の食生活で意識したい判断基準は、加工肉を必要以上に恐れることではなく、毎日食べる習慣を見直すことだ。ハムやベーコンを完全に排除しなくても、魚、鶏肉、豆腐、納豆などを組み合わせることで、食卓の選択肢は広がる。
「50gまでは安全」「無添加なら問題ない」といった単純な判断を避け、摂取量と頻度、食生活全体のバランスを考えること。それが、加工肉とがんの関係を正しく理解し、長期的な健康を守るための現実的な選択になる。
【プロの結論】 加工肉の発がん性は、科学的に無視できない事実である。しかし、グループ1という分類を過度に恐れる必要もない。重要なのは、加工肉を日常的な主役にせず、できるだけ少なくすること。そして、食事・運動・検診を組み合わせた総合的ながん予防を続けることだ。
主な参考資料:世界保健機関(WHO)2026年9月23日更新資料、国際がん研究機関(IARC)、国立がん研究センター「がん予防法の提示」2026年5月26日改訂版、日本のJPHC研究、農林水産省「ニトロソアミン類とは」、食品安全委員会。