【WHOワクチン公平性】テドロスが推進した政策とパンデミック協定

目次

テドロス氏がWHO事務局長として一貫して訴えてきた政策の一つが、ワクチンや医療サービスを世界中の人々に公平に届けることです。

この考え方は、WHOが掲げる「Health for All(すべての人に健康を)」という理念と結び付いています。

COVAXで浮き彫りになったワクチン格差

てどろす

新型コロナの流行中、WHOはGavi(ワクチンアライアンス)、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)、ユニセフなどと協力し、COVAXという国際的なワクチン供給の仕組みを進めました。

目的は、経済力のある国だけがワクチンを確保するのではなく、所得の低い国にも必要なワクチンを届けることでした。

しかし、実際には大きな格差が発生しました。

WHOの2021年12月の発表では、同年末までに各国人口の40%にワクチンを接種する目標について、98か国が達成できていませんでした。

WHOは、富裕国による直接契約やワクチンの先行確保がCOVAXの供給を圧迫したことも問題視しています。

その一方で、ワクチンが届いた後の保管設備、配送網、医療従事者の不足、接種への需要など、受け入れ国側の課題も存在しました。

つまり、ワクチン格差は単純にワクチンの生産量だけで決まったものではありません。

調達力、国際的な供給契約、物流、医療インフラという複数の要因が重なっていました。

70%接種目標は達成できたのか

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WHOは2021年、2022年半ばまでに世界各国の人口の70%にワクチンを接種する目標を掲げました。

しかし、この目標は予定どおり達成されませんでした。

2022年5月のWHO・COVAX関連発表でも、低所得国と高所得国の間に接種率の格差が残っていることが示されています。

テドロス氏が公平性を強く主張した背景には、感染症対策が一国だけで完結しないという問題意識があります。

一部の国で感染が抑えられても、他の地域で感染が広がれば、新たな変異株や国際的な感染拡大のリスクが残ります。

ただし、COVAXの成果を評価する際には、ワクチンの調達や供給に加え、実際に接種できる体制を整えられたかも見る必要があります。

WHOパンデミック協定とは?

てどろす

もう一つの重要な政策が、WHOパンデミック協定です。

新型コロナの経験から、各国が感染症の情報を共有し、医療物資やワクチンを公平に確保できる国際的な仕組みをつくることが課題になりました。

この議論を経て、2025年5月20日、第78回世界保健総会はWHOパンデミック協定をコンセンサスで採択しました。

協定の目的は、将来のパンデミックに備え、感染症の予防、準備、対応における国際協力を強化することです。

特に重要なのが、病原体へのアクセスと利益配分を扱うPABS(Pathogen Access and Benefit-Sharing)制度です。

この制度は、パンデミックにつながる可能性のある病原体や遺伝子配列情報を迅速に共有する一方、その研究成果から開発されたワクチン、治療薬、診断薬などの利益も公平に分配することを目指しています。

2026年9月18日のWHO発表によると、加盟国はPABS制度の付属書をめぐる第8回政府間作業部会の交渉を終え、協議を前進させました。

ただし、付属書の交渉は継続中です。

協定の採択と、付属書の最終合意、各国による署名・批准、実際の制度運用は、それぞれ異なる段階にあります。

2026年11月時点では、PABS制度の具体化が今後の重要な焦点です。

テドロス氏にとって、この協定を実効性のある国際的な仕組みに発展させられるかどうかは、2期目の大きな政策的評価につながります。

【2027年WHO事務局長選挙】後任候補7人と選出方法を解説

2026年11月現在、テドロス氏の後任選びはすでに正式な選挙プロセスに入っています。

WHOが2026年10月29日に公表した資料によると、加盟国から提案された候補者は7人です。

今回の選挙では、WHO内部の人事だけでなく、各国の保健政策や国際外交を背景とした競争が注目されています。

2026年10月29日に公表された7人の候補者

WHO公式発表で公表された候補者と推薦国は以下のとおりです。

1. ハナン・モハメド・アル・クワリ氏(Hanan Mohammed Al-Kuwari):カタール推薦。カタールの元保健相。
2. ハナン・バルキ氏(Hanan Balkhy):サウジアラビア推薦。WHO東地中海地域事務局長。
3. ハンス・クルーゲ氏(Hans Henri P. Kluge):ベルギー推薦。WHO欧州地域事務局長。
4. マリア・ネイラ氏(María P. Neira):スペイン推薦。WHOの環境・気候変動・健康分野で幹部を務めた経歴を持つ。
5. ブディ・グナディ・サディキン氏(Budi Gunadi Sadikin):インドネシア推薦。同国の保健相。
6. リー・ソン氏(Li Song):中国推薦。中国の保健分野などで経験を持つ政府関係者。
7. ゲヴォルク・タマミャン氏(Gevorg Tamamyan):ボツワナ推薦。アルメニア出身の小児腫瘍専門医・大学教授。

今回の候補者には、各国の保健行政を担ってきた人物、WHOの地域組織を率いる人物、専門医や研究者などが含まれています。

そのため、選挙では単なる知名度だけでなく、国際保健の専門性、外交交渉力、財政運営、組織改革への具体的な提案が問われます。

WHO事務局長はどのように選ばれる?

WHO事務局長は、一般の国連事務総長と同じ選出方法ではありません。

選出の中心になるのは、WHO執行理事会と世界保健総会の2つの機関です。

まず、WHO加盟国が候補者を推薦します。

その後、執行理事会が候補者を審査し、候補者を絞り込みます。最終的に最大3人が世界保健総会に推薦され、加盟国による投票で新しい事務局長が決まります。

最終的な任命は秘密投票で行われます。

なお、候補者はWHO職員である必要はなく、推薦した加盟国の国籍を持っている必要もありません。

2026年から2027年までの選挙スケジュール

日程 選挙プロセス 内容
2026年4月24日 選挙開始 加盟国への候補者推薦の呼びかけ
2026年9月24日 推薦締め切り 候補者の提出期限
2026年10月29日 候補者公表 7人の候補者を正式発表
2026年11月18~19日 第1回候補者フォーラム ジュネーブで候補者が政策やビジョンを説明
2027年初頭 執行理事会 5人への絞り込み、面接、最大3人の推薦
2027年3月15日 第2回候補者フォーラム 最終候補者による討論
2027年5月 第80回世界保健総会 新事務局長を任命
2027年8月16日 新事務局長就任 新しい5年間の任期が始まる

注目したいのは、2026年11月18~19日に予定されている第1回候補者フォーラムです。

各候補者が加盟国に対して自分の政策やWHOの将来像を示す機会となります。

その後、2027年初頭の第160回執行理事会で候補者が5人に絞られ、面接を経て最大3人が世界保健総会に推薦される予定です。

最終的な決定は2027年5月の第80回世界保健総会で行われます。

テドロス氏の続投はある?

現行制度では、WHO事務局長の任期は5年間で、再任は1回までです。

テドロス氏は2017年に就任し、2022年に再選されました。

したがって、2027年の選挙で3期目を目指すことはできません。

今回の選挙は、テドロス氏個人の続投を決めるものではなく、次のWHO事務局長を選ぶ選挙です。

今後は、各候補者がどのようなWHO改革を提示するか、パンデミック協定をどう実施するか、加盟国間の信頼をどのように回復するかが大きな争点になります。

【テドロスと日本政府の関係】UHCナレッジハブが示す協力体制

テドロス氏と日本政府の関係を理解するうえで、重要なキーワードがUHCです。

UHCとはUniversal Health Coverageの略で、日本語では「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」と呼ばれます。

すべての人が、必要な保健医療サービスを、経済的に無理のない負担で受けられる状態を意味します。

日本は国民皆保険制度を整備してきた経験を持ち、国際保健の分野でもUHCの推進を外交政策の重要な柱にしています。

岸田政権は2022年にテドロス氏の再選を支持

日本とテドロス氏の関係は、2025年や2026年に突然始まったものではありません。

2022年5月19日、岸田文雄首相はテドロス氏と電話会談を行いました。

外務省の発表によると、岸田首相は同年のWHO事務局長選挙でテドロス氏の再選を支持する考えを伝えています。

会談では、新型コロナ対策やWHOの財政基盤強化、日本が推進するUHCについても意見交換が行われました。

また、日本にWHOのUHCセンターを設立することを検討するため、タスクフォースを設置することも確認されました。

2025年12月、テドロス氏が日本を訪問

2025年12月5日には、テドロス氏がUHCハイレベルフォーラムへの参加のため来日しました。

同日、テドロス氏は世界銀行のアジェイ・バンガ総裁とともに高市早苗首相を訪問しました。

日本政府、WHO、世界銀行の3者で、UHCの実現に向けた連携を続けることが確認されています。

翌6日には東京でUHCハイレベルフォーラム2025が開催され、財務省、厚生労働省、WHO、世界銀行が参加しました。

この場で正式に立ち上げられたのが、UHCナレッジハブです。

UHCナレッジハブとは何をする組織なのか

UHCナレッジハブは、開発途上国の医療制度と保健財政を強化するための国際的な人材育成・知識共有の拠点です。

特に、保健省だけでなく財務省の幹部も対象にしている点が特徴です。

医療制度を充実させるには、医療従事者や病院を増やすだけでは十分ではありません。

安定した財源を確保し、予算を適切に配分し、長期的に医療サービスを維持できる制度が必要です。

そのため、UHCナレッジハブでは、次のような課題を扱います。

- 保健医療サービスを支える国内財源の確保
- 医療費の負担を軽減する制度設計
- 保健省と財務省の連携強化
- 医療サービスの地域格差の縮小
- 開発途上国の政策担当者の育成
- 各国の保健財政改革に関する知識共有

厚生労働省によると、2026年2月24~28日には初年度研修に参加する8か国の保健省・財務省の政府高官を対象に、東京で対面研修が行われました。

さらに2026年7月には、WHO東京事務所が開所しました。

同事務所はUHCナレッジハブの取り組みを支える中心的な機能を担い、日本政府とWHOの連携窓口としても位置付けられています。

この動きは、テドロス氏と日本政府の関係が、単なる首脳会談や外交上の友好関係にとどまらず、国際保健制度の構築にまで広がっていることを示しています。

日本は次期事務局長選挙で誰を支持するのか

2022年の岸田政権によるテドロス氏の再選支持と、2026~2027年の後任選挙は分けて考える必要があります。

日本政府はWHO改革やUHC推進への協力を継続していますが、2026年11月2日時点で、次期候補者7人のうち特定の人物を日本が支持すると決めたことを示す公的発表は確認できません。

したがって、日本とWHOの協力関係が深いことだけを理由に、特定候補者への支持を推測することはできません。

日本にとっては、次期事務局長がUHCの推進、WHOの財政改革、国際感染症対策、日本人職員の登用などについて、どのような政策を示すかが重要になります。

【テドロスに関するよくある質問(FAQ)】

Q1:テドロスは現在もWHO事務局長なのですか?

A1:はい。2026年11月現在もWHO事務局長です。2期目の任期は2027年8月15日までとなっています。

Q2:テドロスはエチオピアの大統領だったのですか?

A2:いいえ。テドロス氏はエチオピアの保健相と外相を務めましたが、大統領ではありません。2005~2012年に保健相、2012~2016年に外相を務めています。

Q3:テドロスの後任は誰になるのですか?

A3:2026年10月29日に7人の候補者が公表されました。2027年初頭にWHO執行理事会が候補者を絞り込み、5月の世界保健総会で新事務局長が任命される予定です。2026年11月2日時点では、後任はまだ決まっていません。

Q4:テドロスはなぜ批判されているのですか?

A4:主な理由は、新型コロナ感染初期のWHOの対応、中国政府に対する発言、WHOの危機管理体制などです。一方、ワクチン公平性やUHCの推進、国際保健の協力体制を評価する意見もあります。

Q5:テドロスと日本政府はどのような関係ですか?

A5:日本政府はWHOとUHCの推進で協力しています。2022年には岸田首相がテドロス氏の再選を支持し、2025年には高市首相との面会やUHCナレッジハブの立ち上げが行われました。

Q6:WHOパンデミック協定はすでに実施されているのですか?

A6:協定本文は2025年5月に採択されています。ただし、病原体へのアクセスと利益配分を扱うPABS制度の付属書について、2026年9月時点でも加盟国間の交渉が続いています。採択と全面的な制度運用は別の段階です。

【まとめ:今後の動向と失敗しないための判断基準】

テドロス・アダノム・ゲブレイェソス氏は、感染症の研究者からエチオピアの保健相・外相を経て、WHO事務局長に就任した人物です。

エチオピアでの医療制度改革を経験し、国際外交にも携わった経歴は、世界の保健医療政策を担ううえで大きな特徴になっています。

一方、新型コロナ対応では初期の危機管理や中国との関係をめぐって批判され、国際機関の指導者としての評価は一様ではありません。

今後の注目点は、次の4つです。

1. 2027年の後任選挙

7人の候補者から誰が最終候補に残り、どのような政策を提示するのか。WHOの将来を左右する重要な選挙です。

2. WHOパンデミック協定の実効性

協定を採択しただけで終わらせず、PABS制度を具体化し、次の感染症危機に備えた公平な仕組みを構築できるかが問われます。

3. ワクチン公平性と国際保健の格差

感染症対策では、医療技術の開発だけでなく、所得や国籍によって医療へのアクセスに差が生まれない仕組みが必要です。

4. 日本とWHOの連携

UHCナレッジハブやWHO東京事務所を通じ、日本が国際保健の制度づくりにどの程度貢献できるかも注目されます。

【プロの結論】

テドロス氏を評価するときに大切なのは、個人の発言だけでなく、WHOという組織の権限と限界を理解することです。

WHOは世界各国の保健政策を調整する国際機関ですが、各国政府に対して国内の感染対策やワクチン接種を一方的に命令できる世界政府ではありません。実際の対策には、加盟国の政治的判断、資金、人員、医療インフラが大きく影響します。

そのため、テドロス氏の評価には、少なくとも「感染症危機への対応能力」「加盟国との信頼関係」「医療資源の公平な配分」という3つの視点が必要です。

2027年の事務局長交代は、単なるトップ人事ではありません。新型コロナの経験を踏まえ、WHOが国際社会からの信頼をどのように取り戻し、次の感染症危機に備えるのかを問う機会になります。

2026年11月現在、テドロス氏はまだ現職です。今後は7人の後任候補者による政策論争と、2期目の任期終了までに残された課題の進展を追うことが、WHOの未来を理解する重要な手がかりとなります。

主な根拠資料: WHO公式略歴・選挙資料・パンデミック協定関連発表、独立パンデミック検証パネル、厚生労働省・外務省・財務省の公表資料、AP通信の報道を参照しています。