イスラム国死刑とは何か?ヤジディ虐殺の裁判から各国の死刑制度まで徹底解説
「イスラム国死刑」と検索すると、イスラム国(IS)による残虐な殺害事件、IS戦闘員に対する死刑判決、イスラム法を根拠とする各国の死刑制度など、性質の異なる情報が見つかる。これらは同じ問題ではない。特に2014年のイラク北部シンジャール襲撃事件では、ヤジディ教徒が大量殺害され、女性や少女が拉致されて性奴隷にされるという深刻な人権侵害が発生した。その加害者に対しては、イラクやドイツなどで刑事責任を問う裁判が行われている。
2026年11月現在、死刑をめぐる国際情勢にも大きな動きがある。イランでは2025年の死刑執行数が少なくとも2,159人に達し、アルジェリアでは2026年10月に死刑対象犯罪を拡大する法改正が成立した。一方、チュニジアでは死刑判決が出ても1991年以来、執行が停止されている。さらに、ロシア北カフカス地方で活動したイスラム国コーカサス州の結成と衰退も、この検索語を理解するうえで見逃せないテーマだ。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:「イスラム国死刑」には、IS構成員への司法判断と、イスラム法圏の国家が運用する死刑制度という異なる意味がある。
- 要点2:2014年のシンジャール襲撃ではヤジディ教徒が大量虐殺され、女性や少女が組織的に性奴隷化された。2020年には被害女性の証言を受け、加害者に死刑判決が下された。
- 要点3:2025年のイランの死刑執行は少なくとも2,159人。アルジェリアでは2026年に死刑対象が拡大し、チュニジアでは執行停止が続いている。
【最初に知っておきたい】イスラム国死刑が意味する2つの異なる問題

「イスラム国死刑」という言葉を正しく理解するには、まず誰が、誰に対して、どのような権限で死刑を科しているのかを区別する必要がある。
IS構成員に対する死刑判決
1つ目は、イスラム国の戦闘員や協力者が犯した殺人、拉致、性暴力、ジェノサイドなどの犯罪について、国家の司法機関が刑事裁判を行い、死刑を言い渡すケースだ。
代表的なのが、2020年3月にイラクの裁判所で言い渡された、ヤジディ教徒女性への性暴力事件の死刑判決である。
この裁判では、被害女性本人が法廷で証言し、ISの構成員だった男が有罪となった。
ここで重要なのは、死刑を宣告したのはイスラム国ではなく、イラクの司法機関だという点である。
ISが支配地域で独自の裁判制度を運用していたことと、ISの犯罪を国家の裁判所が裁くことは、まったく異なる問題である。
イスラム法に基づく国家の死刑制度
2つ目は、イスラム教の法的解釈や国内刑法に基づいて、国家が死刑制度を運用する問題だ。
イランはその代表例であり、イスラム法の解釈を取り入れた刑事司法制度を維持している。
一方、アルジェリアやチュニジアも法律上は死刑制度を残しているが、長年にわたって執行を停止してきた。
つまり、イスラム教徒が多数を占める国だからといって、すべての国が同じ死刑制度を持っているわけではない。
また、ISが自らの暴力を宗教的に正当化しようとしたことを、イスラム教全体の教義や信者の考え方と同一視することもできない。
この2つを混同すると、ISによるテロ犯罪への司法判断と、各国の刑事政策に関する議論が一緒になってしまう。
【シンジャール襲撃事件】イスラム国によるヤジディ教徒虐殺と性奴隷被害
イスラム国による犯罪を理解するうえで、避けて通れないのが2014年8月のシンジャール襲撃事件である。
この事件は単なる軍事作戦や地域紛争ではなく、特定の宗教共同体を破壊しようとした組織的な迫害として、国際社会から重大な問題として扱われている。
2014年8月3日に始まったヤジディ教徒への攻撃
2014年8月3日、ISはイラク北部のシンジャール地方に大規模な攻撃を開始した。
シンジャールには、古くから独自の宗教と文化を守ってきたヤジディ教徒が暮らしていた。
ISはヤジディ教徒を敵視し、住民に改宗を迫った。抵抗した男性や少年らが殺害され、女性や少女は拉致された。
国連の性暴力担当事務総長特別代表が2024年8月に発表した声明によれば、この襲撃によって6,417人のヤジディ教徒が拉致された。
女性や少女は強制結婚、強姦、性奴隷化、人身取引などの被害を受けた。子どもたちも家族から引き離され、過酷な扱いを受けた。
2025年8月の国連発表では、ヤジディ教徒の行方不明者は約2,600人に上るとされている。トルクメン人やシャバク人の女性・少女にも行方不明者がいる。
被害は2014年の襲撃当時だけにとどまらず、家族との離別、故郷への帰還の困難、長期的な心身の傷として現在まで続いている。
性奴隷制度は偶発的な犯罪ではなかった
ISによるヤジディ教徒女性への性暴力は、一部の戦闘員が独断で行った犯罪というだけでは説明できない。
国連イラク支援団(UNITAD)が2024年9月に公表した調査報告書は、ISによるヤジディ教徒への犯罪について、戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドが行われたと信じるに足る合理的根拠があると結論づけた。
報告書が明らかにしたのは、女性や少女の奴隷化が組織的に進められていた実態である。
ISは拉致した人々を年齢や性別によって分離し、女性や少女を移送・売買・強制的な支配の対象とした。
さらに、2014年10月から2015年5月にかけて、女性奴隷の扱いや強制結婚、性的暴力を規定する文書を発行していたことも確認されている。
UNITADの調査では、女性や少女の性奴隷化が奴隷制度の中心的な目的だったことが示されている。
これは、戦闘員個人の欲望だけで説明できる問題ではない。組織の指導層が関与し、宗教的な理屈を持ち出しながら人間の所有と支配を制度化した犯罪だった。
ヤジディ教徒に対するジェノサイド認定の意味
ジェノサイドとは、特定の民族、宗教、人種、国民集団などを全部または一部破壊する意図をもって行われる犯罪を指す。
国連のシリア調査委員会は2016年、ISがヤジディ教徒に対してジェノサイドを行っていると認定した。
その後、UNITADも証拠を積み重ね、2021年にはジェノサイドを裏付ける明白かつ説得力のある証拠があるとの判断を示した。
2024年の報告書は、こうした調査をさらに具体化したものだ。
重要なのは、殺害だけではなく、性的暴力、強制移送、家族の分断、宗教的アイデンティティの破壊なども、ジェノサイドの意図を示す要素として検討されている点である。
ヤジディ教徒の被害は、個人に対する犯罪であると同時に、共同体そのものを破壊しようとした組織的犯罪として記録されている。
【元性奴隷女性の勝訴事例】証言によって死刑判決が下された裁判
シンジャール襲撃事件の被害者にとって、加害者の責任を司法の場で問うことは、長く困難な課題だった。
その状況に変化をもたらした事例が、2020年3月にイラクで行われたヤジディ教徒女性の証言と、それに続く死刑判決である。
アシュワク・ハジ・ハミド氏が法廷で証言
2020年3月、20歳のヤジディ教徒女性アシュワク・ハジ・ハミド・タロ氏(Ashwaq Haji Hamid Talo)が、過去に自分を拘束し、性的暴力を加えたIS関係者の裁判で証言した。
被告はイラク人のモハメド・ラシード・サハブ(Mohammed Rashid Sahab)。
2014年、ISの支配下で拘束された彼女は、約2か月半にわたって性的虐待や拘束を受けたと証言した。
この裁判の大きな特徴は、ヤジディ教徒の被害女性本人が公開の法廷で加害者と向き合い、直接証言したことだった。
被告はテロ組織への参加や、ヤジディ教徒女性の拉致・強姦に関する罪で有罪となり、イラクの裁判所から死刑判決を受けた。
裁判後、アシュワク氏は、自分を強姦した人物に死刑判決が下される瞬間を見届けられたことへの思いを語ったと、ニューヨーク・タイムズの報道を引用したクーリエ・ジャポンなどが伝えている。
この事件は、ヤジディ教徒の被害を具体的に審理したイラクの裁判として、また被害女性が加害者と法廷で対峙した事例として注目された。
ドイツではジェノサイドとして有罪判決
もう一つ重要なのが、ドイツのフランクフルト高等地方裁判所で行われたタハ・アルJ(Taha al-J.)の裁判だ。
2021年11月30日、同裁判所は元IS構成員のタハ・アルJに対し、ヤジディ教徒へのジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪などについて有罪判決を下し、終身刑を言い渡した。
事件では、ISに拘束されていたヤジディ教徒の女性と5歳の娘が奴隷として扱われた。
被告は母親と娘に虐待を加え、少女が炎天下で衰弱して死亡する結果を招いた。
裁判所は、被告に終身刑を科すとともに、被害女性に5万ユーロの賠償を命じた。
この事件が持つ大きな意味は、ドイツの裁判所が、国外で発生したヤジディ教徒へのジェノサイドについて刑事責任を認定したことにある。
これは国際刑事法における普遍的管轄権の重要性を示す事例でもある。
イラク国内で起きた犯罪であっても、一定の法的要件を満たせば、別の国の司法機関が裁判を行える。
「勝訴」と「死刑判決」は同じ意味ではない
ここで注意したいのが、報道で使われる「元性奴隷女性の勝訴」という表現だ。
アシュワク氏の事例は、民事訴訟で損害賠償を獲得したという意味での勝訴ではない。
被害者の証言を受けて刑事裁判が行われ、加害者に有罪判決と死刑が言い渡された事例である。
一方、ドイツのタハ・アルJ事件では終身刑と金銭賠償が命じられている。
両者は同じヤジディ教徒への犯罪をめぐる裁判だが、裁判を行った国、被告人、適用法、刑罰が異なる。
また、死刑判決が出たことと、実際に死刑が執行されたことも区別しなければならない。
被害者の証言が司法判断を支えたこと、そして国境を越えた刑事責任の追及が進んだことこそ、この2つの裁判に共通する重要な意味である。
【比較表】イスラム国の犯罪と各国の死刑制度を時系列で整理
「イスラム国死刑」をめぐる情報は、事件の発生時期と裁判の時期、さらに各国の死刑制度の動向を分けて見ると理解しやすい。
以下は、主要な出来事と関係する司法判断を整理したものだ。
| 時期・国 | 関係する人物・出来事 | 司法・制度上の意味 |
|---|---|---|
| 2014年8月・イラク | シンジャール襲撃事件 | ヤジディ教徒の大量殺害と拉致、性奴隷化が発生 |
| 2020年3月・イラク | アシュワク氏とモハメド・ラシード・サハブ | 被害女性の証言を受け、IS関係者に死刑判決 |
| 2021年11月・ドイツ | タハ・アルJ | ヤジディ教徒へのジェノサイドなどで終身刑、5万ユーロの賠償命令 |
| 2025年・イラン | 国家による死刑執行 | アムネスティによる集計で少なくとも2,159人 |
| 2025年10月・チュニジア | サベル・ベン・シュシャン | Facebook投稿をめぐり死刑判決。その後、大統領恩赦で釈放 |
| 2026年10月・アルジェリア | 死刑対象犯罪の拡大 | 森林への放火や子どもの誘拐などに死刑を適用する改正が施行 |
イランの死刑執行数は2025年に2,159人以上
2026年5月18日、アムネスティ・インターナショナルは2025年の世界の死刑執行状況をまとめた年次報告書を発表した。
その報告によれば、イラン当局による2025年の死刑執行は、少なくとも2,159人に達した。
これは2024年の少なくとも972人から2倍以上に増加した数字であり、アムネスティが1981年以降に確認したイランの年間執行数として最多となった。
世界全体では、2025年に17か国で少なくとも2,707人の死刑が執行された。
なお、この世界合計には中国で行われたと考えられる数千人規模の執行や、ベトナム、北朝鮮などでの把握できていない執行は含まれていない。
イランの数字は、単なる宗教上の議論ではなく、実際の国家による刑事司法と人権問題を考えるうえで重要なデータだ。
アムネスティは、イランでは薬物犯罪や国家安全保障に関する犯罪などでも死刑が広く使われていると指摘している。
特に2025年の死刑執行増加は、死刑制度が治安政策や政治的な統制と結びつく危険性を示している。
アルジェリアでは2026年に死刑対象犯罪が拡大
アルジェリアは長年、死刑制度を法律上維持しながら、実際の執行を停止してきた国である。
最後の死刑執行は1993年とされている。
しかし、2025年7月には薬物関連犯罪の一部に死刑を適用できるよう、対象犯罪の拡大が行われた。
さらに2026年8月、同国で発生した大規模な森林火災を受け、アブデルマジド・テブン大統領が放火犯への死刑適用を指示した。
その後、10月1日に国民議会下院が刑法改正案を可決。10月7日には上院の承認も得られ、10月13日に官報で公布された。
新たな規定では、森林や林地、農地などへの故意の放火、一定の外国勢力との関係を伴う放火、子どもの誘拐などが死刑対象に加えられた。
子どもの誘拐に拷問、性的暴行、身体的な虐待などが伴う場合には、さらに厳しい刑罰が定められている。
この改正は、30年以上にわたって続いてきた執行停止とは別の意味を持つ。法律上の死刑対象を広げ、死刑制度の適用範囲を実質的に拡大したからだ。
ただし、死刑対象犯罪が拡大したことと、実際に死刑執行が再開されたことは別である。
2026年11月時点で、アルジェリアの最後の執行が1993年だったという事実は変わっていない。
チュニジアでは執行停止中でも死刑判決が出ている
チュニジアも、死刑制度の実態を理解するうえで重要な国だ。
同国では法律上、死刑が廃止されていない。しかし、最後の死刑執行は1991年であり、それ以降は事実上の執行停止が続いている。
その状況に注目が集まったのが、2025年10月1日のサベル・ベン・シュシャン氏に対する死刑判決だった。
彼はFacebookへの投稿をめぐり、国家体制の変更を企てた罪などに問われ、ナブルの第一審裁判所から死刑を言い渡された。
ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、この判決は平和的な表現活動に対する死刑判決として前例のないものだった。
しかし、判決後に批判が広がり、10月7日に大統領恩赦によって釈放された。
この事例は、死刑が実際に執行されていない国でも、裁判所が死刑を言い渡す可能性があることを示している。
したがって、チュニジアを「死刑が完全に廃止された国」と紹介するのは正確ではない。
【イスラム法と死刑の関係】宗教の教義と国家の刑事制度はどう違う?
イスラム教における死刑を理解するには、イスラム法(シャリーア)と、各国が制定する国内法を区別する必要がある。
イスラム法は単一の刑法典ではなく、クルアーン、スンナ、法学者による解釈などを基礎とする幅広い法体系である。
その解釈や国家法への取り入れ方は、国や宗派、法学派によって異なる。
イスラム刑法における3つの主要な分類
イスラム刑法の古典的な分類では、犯罪と刑罰は大きく3つに分けられる。
1.ハッド(Hadd)
宗教的な法源に基づき、刑罰が定められる犯罪類型である。
ただし、どの犯罪が該当するのか、どのような刑罰が適用されるのかについては、法学派や解釈による違いがある。
2.キサース(Qisas)
殺人や身体への傷害などを対象とする応報刑の考え方である。
故意の殺人などでは、被害者側の権利が重視され、法的条件を満たせば同害報復が認められる場合がある。
一方、遺族側が報復を求めず、血の代償金であるディーヤ(Diya)を受け入れる仕組みもある。
3.タアズィール(Ta'zir)
ハッドやキサースのように刑罰が固定されていない犯罪について、統治者や裁判官などが一定の裁量で刑罰を決める考え方である。
この分類を理解すると、イスラム法に関係する死刑制度が一律ではない理由が見えてくる。
オックスフォード大学出版局のイスラム刑法に関する研究でも、これら3つの分類が説明されている。
イスラム法を採用する国でも死刑制度は異なる
イスラム法の解釈を取り入れている国であっても、死刑の対象犯罪、裁判手続き、執行状況は同じではない。
例えばイランでは死刑執行が多く、2025年には2,159人以上が処刑された。
一方、アルジェリアとチュニジアでは、死刑制度を法律上残しながら長期にわたって執行を停止してきた。
この違いを生むのは、宗教だけではない。
国内の刑法、政治体制、司法機関の独立性、治安政策、国際人権条約との関係など、複数の要因が関係している。
また、死刑の正当性についてはイスラム法学者の間にも議論がある。
厳格な条件を求める解釈や、刑罰の軽減・代替を重視する考え方も存在する。
したがって、「イスラム教では死刑が当然とされている」という理解は、宗教法の複雑さを無視した単純化だ。
ISの宗教的正当化とイスラム教全体を混同してはいけない
ISはヤジディ教徒への迫害や性奴隷化について、自らの宗教的解釈を持ち出して正当化しようとした。
しかし、ISの主張がイスラム教徒全体の宗教的見解を代表しているわけではない。
UNITADの報告書が示したのは、ISが自らのイデオロギーを利用し、奴隷化や性的暴力を組織的に実行したという事実である。
犯罪を宗教的な言葉で正当化したことと、その宗教全体が犯罪を認めていることは、明確に異なる。
この区別は、イスラム国の犯罪を正確に理解するうえでも、イスラム教徒への偏見を避けるうえでも欠かせない。
【ISコーカサス州の現在】ルスタム・アシルダロフと組織の結成・衰退
イスラム国の活動をシリアやイラクだけに限定して考えると、その国際的な組織構造を見誤る。
ロシア南部の北カフカス地方にも、ISの関連組織として「イスラム国コーカサス州(IS-CP)」が存在した。
この組織は、ISが支配地域を拡大していた2015年に結成が発表され、その後、ロシア当局の対テロ作戦などによって弱体化した。
2015年6月23日に結成が発表された
イスラム国コーカサス州は、ロシア連邦に属する北カフカス地方で活動したISの地域支部である。
2015年6月23日、ISの報道官アブー・ムハンマド・アルアドナーニが、北カフカス地方の武装勢力による忠誠の誓いを受け入れ、新たな州の設立を発表した。
このとき指導者に任命されたのが、ダゲスタン出身のルスタム・アシルダロフ(Rustam Asildarov)である。
彼はアブ・ムハンマド・アル・カダリという別名でも知られていた。
当時の北カフカスでは、アルカイダ系の武装組織である「カフカス首長国」に所属していた一部の指導者や戦闘員がISへの忠誠を表明していた。
その動きが、ISコーカサス州の結成につながった。
ルスタム・アシルダロフは2016年12月に死亡
組織の指導者だったアシルダロフは、2016年12月3日、ロシアの治安当局による作戦でダゲスタン共和国のマハチカラにおいて殺害された。
国連安全保障理事会の制裁関連資料にも、彼がISILの活動に関与し、2016年12月3日にロシア当局によって殺害されたことが記載されている。
指導者を失ったことは、地域支部の統率力に大きな影響を与えた。
2017年までには、かつてのような統一的な武装勢力としての組織基盤は大きく崩れ、北カフカスの組織的な反乱は実質的に終息したとする分析もある。
ただし、ISコーカサス州の活動が2017年に完全消滅したという意味ではない。
2017年以降も過激派の脅威は残った
北カフカスでは、組織の指導者や主要な活動基盤が失われた後も、過激派思想に影響された人物や小規模なネットワークが残った。
米国務省の2017年テロ報告書は、ロシア国内でISに関連するとされる武装勢力の活動を記録している。
また、北カフカスのIS関連組織についての2025年の研究では、2015年から2020年までに約30件の作戦が行われ、最後に報告された作戦は2020年12月だったと整理されている。
同研究は、コーカサス支部の現在の状態については不明確だとしている。
つまり、組織化された武装勢力としての衰退と、過激派思想に基づく暴力の消滅は同じではない。
2024年にはダゲスタンのデルベントやマハチカラで大規模な襲撃事件が発生した。
2025年に公表された北カフカスのテロ動向分析でも、地域の治安問題は続いていると指摘されている。
ただし、こうした事件をすべてISコーカサス州の直接的な指揮によるものと断定することはできない。
ISコーカサス州そのものの活動、ISホラサン州など別の関連組織との関係、個人による過激化は、分けて検討する必要がある。
【日本との関係】後藤健二さん殺害事件とISの処刑映像
日本でイスラム国という名称が広く知られるきっかけの一つとなったのが、ジャーナリストの後藤健二さんと湯川遥菜さんの人質事件である。
この事件は、ISによる暴力が中東地域にとどまらず、日本社会にも深刻な衝撃を与えたことを示している。
2015年2月1日に後藤健二さん殺害映像が公開
日本の外務省による2015年版外交青書によれば、2015年1月20日、ISは湯川遥菜さんと後藤健二さんとされる人物が映った映像をインターネット上に公開した。
ISは日本政府に対して、身代金として2億ドルを要求した。
その後、1月24日には湯川さんが殺害されたとする映像が公開された。
1月27日には、ヨルダンで拘束されていた死刑囚との交換を求めるメッセージが公開された。
そして2015年2月1日、後藤健二さんが殺害されたとする映像が公開された。
日本政府はこれを非道なテロ行為として強く非難した。
安倍晋三首相も同日の声明で、事件への強い怒りと悲しみを表明し、テロに屈しない姿勢を示した。
後藤健二さんの事件は司法上の死刑判決とは異なる
この事件を「イスラム国の死刑判決」と混同することはできない。
ISが公開した映像は、国家の司法機関による公正な裁判と判決を経た刑の執行ではない。
人質を拘束し、殺害するというテロ組織による犯罪行為だった。
一方、イラクでアシュワク氏が証言した裁判は、ISの犯罪を国家の司法機関が審理した刑事裁判である。
同じ「殺害」や「死刑」という言葉が使われても、法的な意味は根本的に異なる。
この違いを理解することは、ISの犯罪を正確に捉え、被害者の尊厳を守るためにも重要だ。
【イスラム国死刑】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:イスラム国の戦闘員に死刑判決が出た実例はある?
A1:ある。2020年3月、イラクの裁判所はヤジディ教徒女性への拉致・性的暴力などに関与したIS関係者のモハメド・ラシード・サハブに死刑判決を言い渡した。被害女性アシュワク・ハジ・ハミド氏が法廷で証言したことでも知られる。
Q2:イスラム国によるヤジディ教徒虐殺はジェノサイドなの?
A2:国連のシリア調査委員会は2016年にジェノサイドと認定した。さらにUNITADは2024年の調査報告書で、ISによるヤジディ教徒へのジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪について合理的根拠があると結論づけている。
Q3:イスラム教では死刑が必ず認められているの?
A3:一律ではない。イスラム刑法にはハッド、キサース、タアズィールという主要な分類があるが、解釈や国内法への取り入れ方は国や法学派によって異なる。ISの主張をイスラム教全体の教義と同一視することもできない。
Q4:イランの2025年の死刑執行数は何人?
A4:アムネスティ・インターナショナルの2026年発表によると、少なくとも2,159人。2024年の972人から2倍以上に増加し、同団体が1981年以降に確認したイランの年間執行数として最多となった。
Q5:アルジェリアとチュニジアでは現在も死刑がある?
A5:両国とも死刑制度を維持している。アルジェリアでは2026年10月に森林放火や子どもの誘拐などへの死刑適用を拡大する法改正が施行された。チュニジアでは1991年以来、死刑執行が停止されているが、2025年10月には死刑判決が出た事例もある。
Q6:イスラム国コーカサス州は現在も活動している?
A6:現在の組織的な活動状況は明確ではない。2015年に結成が発表され、指導者ルスタム・アシルダロフは2016年に殺害された。組織化された勢力としては衰退したが、北カフカス地方の過激派による暴力や関連ネットワークの脅威は残っている。
まとめ:イスラム国死刑を理解するために必要な3つの視点
「イスラム国死刑」という検索語の背景には、ISによる犯罪への司法判断、ヤジディ教徒へのジェノサイド、イスラム法に関連する国家の死刑制度という、異なる問題が存在している。
特に重要なのは、次の3点だ。
第一に、ISによる犯罪と国家の司法判断を区別すること。
2014年のシンジャール襲撃事件では、ヤジディ教徒が大量殺害され、女性や少女が組織的に性奴隷化された。2020年のイラクの裁判や2021年のドイツの終身刑判決は、こうした犯罪に対する司法上の責任追及を示す事例である。
第二に、イスラム法と各国の死刑制度を一括りにしないこと。
イランでは2025年に2,159人以上の死刑が執行された一方、チュニジアでは1991年以来執行停止が続いている。アルジェリアでは2026年に死刑対象犯罪が拡大した。宗教的背景が共通していても、国家の法律や政治、司法の運用は異なる。
第三に、ISの組織的な衰退とテロの脅威の消滅を混同しないこと。
ISコーカサス州は2015年に結成が発表され、ルスタム・アシルダロフの死亡後に組織的な勢力を失った。しかし、北カフカスを含む各地で過激派思想に基づく暴力の脅威は残っている。
死刑判決を調べる際には、必ず「誰が判決を下したのか」「どの国の法律が適用されたのか」「判決と実際の執行はどう違うのか」という3つの視点を確認したい。
ISによる犯罪を正しく記録し、被害者の証言を司法に結びつけ、再発防止につなげること。そして、宗教や民族への偏見と、個別の犯罪組織への責任追及を混同しないこと。それが、イスラム国と死刑をめぐる問題を理解するための基本となる。