【映画監督としての作風】行定勲作品に共通する3つの特徴
行定監督の映画は、単純に「泣ける恋愛映画を撮る監督」という枠には収まらない。
作品を横断して見ると、人物の内面、他者との距離、記憶や喪失といったテーマが繰り返し現れる。そこに映像の美しさや、俳優の自然な演技を引き出す演出が加わっている。
1. 人物の感情を説明しすぎない映像表現

行定作品の特徴として挙げられるのが、感情をセリフだけで説明しないことだ。
『世界の中心で、愛をさけぶ』では、過去の恋愛と現在の喪失感を映像の中で重ねる。『ナラタージュ』では、登場人物の言葉にならない感情や、過去の関係にとらわれる心理を丁寧に描いている。
人物の表情、視線、沈黙、画面の空気感によって、観客に感情を読み取らせる演出が特徴的だ。
公式プロフィールでも、行定監督の作品は情感あふれる映像と重層的な人間模様を持つものとして紹介されている。
2. 主人公だけでなく、周囲の人間関係まで描く
行定作品では、主人公の感情だけを追いかけるのではなく、周囲の人物が何を考え、どのような事情を抱えているかも重要になる。
岩井俊二監督は2016年の対談で、行定作品のテーマの一つとして「不在の主人公の探索」という見方を示した。
これは興味深い指摘だ。
『パレード』では、同じ部屋で暮らす若者たちの関係が少しずつ変化する。『ピンクとグレー』では、他者から見た人物像と本人の実像との間にあるずれが物語を動かす。
登場人物がその場にいなくても、その人の存在が周囲に影響を与え続ける。こうした構造が、作品に奥行きを生んでいる。
3. 俳優の個性を生かす演出
行定監督の俳優への向き合い方も特徴的だ。
2016年のマイナビニュースのインタビューでは、若い俳優にはあえて具体的な指示を出しすぎず、まず本人に演技を考えさせるという演出方針を語っている。
一方、経験豊富な俳優には、あえて細かく制約を与える場合もあるという。
つまり、すべての俳優に同じ演技指導をするのではなく、相手の経験や個性に応じて方法を変えている。
この姿勢は『ピンクとグレー』のように若い俳優が中心となる作品でも、俳優自身の発想を映像に取り込むことにつながっている。
代表作から見る作風の違い
| 作品 | 中心テーマ | 演出上の特徴 |
|---|---|---|
| 『GO』 | アイデンティティー・青春 | 社会的な題材とエンターテインメント性 |
| 『世界の中心で、愛をさけぶ』 | 恋愛・喪失・記憶 | 過去と現在を重ねる情緒的な構成 |
| 『パレード』 | 孤独・人間関係 | 群像劇と心理的な緊張感 |
| 『ナラタージュ』 | 未練・愛情・執着 | 抑制された感情表現 |
| 『リバーズ・エッジ』 | 若者の孤独・欲望 | 退廃的で鋭い映像表現 |
| 『窮鼠はチーズの夢を見る』 | 愛情・依存・葛藤 | 人間関係の不均衡を描く |
| 『リボルバー・リリー』 | 生存・闘争 | 時代劇とアクションの融合 |
| 『楓』 | 愛情・喪失・秘密 | 音楽を原案としたロマンス |
この比較からも、行定監督の作風は一つのジャンルに限定されないことが分かる。共通しているのは、人物の感情や関係性を物語の中心に据える姿勢だ。
【2026年最新】映画『楓』と行定勲のCM監督としての現在
2026年の行定監督を理解するには、映画『楓』と、同年に公開された複数のCM作品を押さえておきたい。
映画『楓』はスピッツの名曲を原案にしたラブストーリー
映画『楓』は、スピッツの楽曲「楓」を原案・主題歌とする恋愛映画だ。
- 監督:行定勲
- 脚本:髙橋泉
- 原案・主題歌:スピッツ「楓」
- 音楽:Yaffle
- 配給:東映、アスミック・エース
- 上映時間:120分
- 主な出演:福士蒼汰、福原遥、宮沢氷魚、石井杏奈、宮近海斗
2025年12月19日に全国公開された。
『楓』のあらすじと見どころ
物語の中心となるのは、恵と亜子という男女の関係だ。
恵を演じる福士蒼汰と、亜子を演じる福原遥が物語を担う。
恵は事故によって亡くなっている。しかし、その双子の兄である涼が、弟のふりをして亜子と暮らしていた。
幼なじみの梶野だけが真実を知っており、涼を見守っている。一方、涼に思いを寄せる日和や、亜子の行きつけの店の店長である雄介も、次第に違和感を抱き始める。
映画の軸となるのは、愛する人を失った後の関係性と、伝えられない秘密だ。
スピッツの楽曲が持つ切なさや余韻を、映画という別の表現形式でどのように再構成するか。そこに行定監督の演出の見どころがある。
2026年4月:銀座ダイヤモンドシライシの「Brand New Day」篇
2026年4月には、ブライダルジュエリーブランド「銀座ダイヤモンドシライシ」の新作ショートムービー「Brand New Day」篇を手掛けた。
出演は濱尾ノリタカと志田彩良。4月11日から全国でテレビCMの放送が開始された。
作品のテーマは、日常の延長線上にあるプロポーズ。
朝のランニングを共通の習慣とする男女を通じて、人生の新しい一歩を描く構成となっている。
テレビ朝日系の紹介記事によれば、行定監督は同ブランドのCMを約10年にわたって手掛けてきた。
映画とは異なる短い映像の中でも、人物の関係性や日常の積み重ねを描く姿勢がうかがえる。
2026年10月:中島歩出演の「Leは男」篇
2026年10月には、メンズコンディショニングサロン「ル・パルレ」の新CM「Leは男」篇を監督した。
- 作品名:「Leは男」篇
- 監督:行定勲
- 出演:中島歩
- 公開:2026年10月9日
- テレビCM放映開始:2026年10月10日
- 放映地域:関東・関西エリア
このCMは、一般的なサービス紹介型の広告とは異なる映像表現を採用している。
特に注目したいのが、モノクロームを基調とした画面だ。
ル・パルレの公式インタビューによると、行定監督は今回のCMを「挑戦的なCM」と位置づけ、モノクロの世界に一部カラーを差し込む演出を採用した。
さらに、背景のビル群にはミニチュアと合成を使用。施術シーンにはハンドダンスを取り入れ、視聴者が映像の意味を考えたくなるような余白も残したという。
出演した中島歩については、以前の短編映画での共同制作経験があり、俳優としての間や口調、映像への理解力を評価して起用したと説明している。
映画監督がCMを手掛ける意味
映画とCMでは、作品の長さも制作目的も異なる。
映画では登場人物の人生を時間をかけて描けるが、CMでは限られた時間の中でブランドや商品の印象を残さなければならない。
それでも、行定監督が2026年に手掛けたCMには、映画作品との共通点がある。
1. 人物を中心に置く: 商品そのものだけでなく、それを取り巻く人物の感情や生活を描く。
2. 映像の余白を生かす: 説明を重ねず、視聴者が意味を考える時間を残す。
3. 映像美にこだわる: モノクロームや色彩、構図、合成などを使い、短い映像にも独自の世界観を与える。
2026年のCM活動は、行定監督が映画だけに活動を限定せず、広告映像でも演出家としての個性を発揮していることを示している。
熊本とのつながりも現在の活動を理解する鍵
行定監督の活動を考える際、出身地の熊本との関係も見逃せない。
2016年の熊本地震後には、熊本出身のスタッフや俳優が集まった映画『うつくしいひと』に関わった。
また、自身がディレクターを務める「くまもと復興映画祭」にも取り組んできた。
映画制作を通じて地域の文化や映画館の存在を発信する活動は、監督としての仕事とは別の意味を持っている。
故郷を舞台にした作品や映画祭の運営は、映画という文化を地域に根付かせる試みでもある。
【よくある誤解】行定勲について知っておきたい事実
『GO』は2002年公開ではない
『GO』の映画公開は2001年。2002年は日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した年だ。
プロフィールや映画一覧で年が異なっているように見えるのは、公開年と受賞年が違うためである。
『OPEN HOUSE』と『ひまわり』のデビュー年は異なる
1997年の『OPEN HOUSE』が長編映画監督としてのデビュー作で、2000年の『ひまわり』が初の劇場公開作品だ。
この違いを理解すると、行定監督の初期の経歴が整理しやすい。
行定勲は恋愛映画専門の監督ではない
『世界の中心で、愛をさけぶ』『ナラタージュ』などの印象から、恋愛映画を専門にする監督だと思われることがある。
しかし、『GO』は社会的な背景を持つ青春映画、『パレード』は群像劇、『リバーズ・エッジ』は若者の内面を描く作品、『リボルバー・リリー』はアクション映画だ。
恋愛映画は代表的なジャンルの一つだが、それだけで作家性を判断するのは適切ではない。
【プロの結論】行定勲の映画は何から見るべきか?作品選びの判断基準
行定勲という映画監督を理解するには、代表作を一つ見るだけでは十分ではない。
作品ごとにジャンルも物語の構造も異なるため、どの作品から見るかによって、監督に対する印象も変わってくる。
おすすめの鑑賞順を整理すると、次のようになる。
| 見たいもの | おすすめ作品 | 注目ポイント |
|---|---|---|
| 監督の原点と代表作 | 『GO』 | 青春と社会性の融合 |
| 映像美と恋愛表現 | 『世界の中心で、愛をさけぶ』 | 記憶と喪失の描写 |
| 複雑な恋愛心理 | 『ナラタージュ』 | 愛情と執着の境界 |
| 人間関係の深い描写 | 『パレード』 | 群像劇と心理的な緊張 |
| 若者の孤独と社会性 | 『リバーズ・エッジ』 | 人物の内面と映像表現 |
| ジャンルの幅 | 『リボルバー・リリー』 | アクションと時代設定 |
| 近年の演出 | 『楓』 | 音楽と映画の融合 |
行定監督の作品が特におすすめなのは、次のような映画ファンだ。
- 登場人物の心理や人間関係をじっくり味わいたい人。
- 映像美やカメラワーク、俳優の表情に注目して映画を見たい人。
- 青春映画や恋愛映画だけでなく、社会性のある作品も好きな人。
- 作品を見終わった後に、登場人物の選択や物語の意味を考えたい人。
反対に、明快な結末やスピーディーな展開、分かりやすい善悪の対立を最優先する人には、作品によっては感情表現や余韻が長く感じられるかもしれない。
大切なのは、監督の代表作を一つのジャンルだけで判断しないことだ。
『GO』と『ナラタージュ』、『リバーズ・エッジ』と『リボルバー・リリー』を見比べれば、同じ監督がどれほど違った物語を作り上げているかが分かる。
【行定勲に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:行定勲の読み方は何ですか?
A1:読み方は「ゆきさだ・いさお」です。1968年8月3日生まれ、熊本県出身の映画監督です。
Q2:行定勲の代表作は何ですか?
A2:代表作には『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』『パレード』『ナラタージュ』『ピンクとグレー』『リバーズ・エッジ』『窮鼠はチーズの夢を見る』『リボルバー・リリー』などがあります。
Q3:行定勲は『GO』で何の賞を受賞しましたか?
A3:2002年の第25回日本アカデミー賞で最優秀監督賞を受賞しました。映画の公開は2001年です。
Q4:行定勲の最新映画は何ですか?
A4:2026年11月現在、公表されている最新の劇場長編映画は『楓』です。2025年12月19日に公開され、スピッツの同名楽曲を原案・主題歌としています。
Q5:行定勲は2026年もCM監督をしていますか?
A5:はい。2026年4月には銀座ダイヤモンドシライシの「Brand New Day」篇、10月には中島歩出演のル・パルレ「Leは男」篇を手掛けています。
Q6:行定勲と岩井俊二の関係は?
A6:行定監督は若い頃に岩井俊二監督作品の助監督を経験しています。両者は2016年にも対談しており、師弟関係に近い交流が知られています。
Q7:行定勲は映画以外の仕事もしていますか?
A7:はい。舞台演出やCM制作にも携わっています。また、熊本に関係する映画制作や「くまもと復興映画祭」の活動にも取り組んできました。
まとめ:行定勲の現在と今後の映画監督としての可能性
行定勲は、熊本で映画監督を志し、助監督として現場経験を積み、1997年の『OPEN HOUSE』で長編映画監督としてのキャリアをスタートさせた人物だ。
2001年公開の『GO』で日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞し、2004年の『世界の中心で、愛をさけぶ』で大きな興行的成功を収めた。その後も『パレード』『ナラタージュ』『リバーズ・エッジ』『窮鼠はチーズの夢を見る』『リボルバー・リリー』など、異なる題材に挑み続けている。
2025年の映画『楓』、2026年の「Brand New Day」篇や「Leは男」篇は、現在も映画・広告の両方で演出活動を続けていることを示す。
行定勲の本質は、恋愛映画のヒットメーカーという肩書だけでは捉えきれない。人物の感情を映像に置き換え、観客に考える余地を残す演出家であり、作品ごとに表現の方法を変えられる映画監督でもある。
今後の作品を見る際には、題材やジャンルだけでなく、人物の視線、沈黙、映像の余白、他者との関係性にも注目したい。そこにこそ、長年にわたって作品を生み出してきた行定勲ならではの演出の魅力がある。