【制作秘話を徹底解剖】8年・24万枚の作画を支えた高畑勲独自の技法

目次

『かぐや姫の物語』を語るうえで欠かせないのが、制作に費やされた時間と、従来のアニメーションの常識を覆す映像表現です。

テレビ東京の番組「新美の巨人たち」の作品特集では、制作期間8年、スタッフ700人以上、作画枚数24万枚という規模が紹介されました。

単純に美しい絵を大量に描いた作品ではありません。高畑監督は、アニメーションの表現そのものを変えようとしていたのです。

8年間に及んだ制作とジブリ第7スタジオ

高畑勲かぐや姫

本作は高畑監督にとって、前作『ホーホケキョ となりの山田くん』以来、約14年ぶりの長編監督作品でした。

企画を進めるなかで、誰もが知る昔話を単純に映像化するのではなく、かぐや姫の心を描くという方向性が固まっていきます。

制作のために新設されたのが、スタジオジブリの第7スタジオです。

制作過程を記録したドキュメンタリー『高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~』では、2011年5月5日から始まった約2年半の記録が紹介されています。

長期間にわたる制作のなかで、監督、アニメーター、美術スタッフなど、多くの専門家が一つの映像表現を追求しました。

作画枚数24万枚を生んだ独自のアニメーション

本作の映像を見て、一般的なジブリ作品との違いに気づく人は多いはずです。

キャラクターの輪郭は整いすぎず、鉛筆で描いた線のかすれや揺れが残されています。

背景も、細部まで均一に描き込むのではなく、淡い水彩画のような色彩を中心に構成されています。

この手法の特徴は次のとおりです。

- 鉛筆の線を生かす: キャラクターの動きや感情を線の強弱で表現する。
- 淡彩による背景: 山や森、草花などの自然を柔らかな色調で描く。
- 余白を残す: 画面を描き込みすぎず、見る人の想像力を引き出す。
- 人物と背景の一体化: 一枚の絵がそのまま動いているような映像を目指す。

三鷹の森ジブリ美術館の企画展示でも、この表現は「淡彩アニメーション」として紹介されました。

従来のセルアニメーションでは、背景とキャラクターを異なる様式で描くことが一般的でしたが、本作では両者を一枚の絵として成立させることに挑戦しています。

なぜ描き込みを減らしたのか

一般的には、細部まで描き込むほど映像の情報量は増えます。

しかし、高畑監督が目指したのは、情報量の多さではありません。

例えば、かぐや姫が怒りや悲しみを爆発させる場面では、整った線よりも、勢いのある線のほうが感情を直接伝えられます。

また、自然の風景に余白を残すことで、観客自身がそこに風や光、空気の存在を感じ取れるようになります。

これは単なる省略ではなく、見る人の想像力まで含めて完成する映像表現です。

制作秘話を知るための関連資料

制作過程をより詳しく知りたい人には、次の資料も参考になります。

- 『高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~』:制作現場を追ったドキュメンタリー。
- 『スタジオジブリ絵コンテ全集20 かぐや姫の物語』:高畑監督の演出意図やカット構成を確認できる資料。
- 『THE ART OF かぐや姫の物語』:キャラクタースケッチ、原画、背景画などを収録した美術資料。

特に絵コンテ全集は890ページに及び、作品がどのような設計思想で作られたのかを知る手掛かりになります。

【声優一覧・音楽の秘密】朝倉あき、高良健吾、久石譲、二階堂和美の役割

『かぐや姫の物語』では、実力派俳優や落語家、歌舞伎俳優など、幅広い分野の出演者が声を担当しています。

ジブリ公式の作品情報に掲載されている主要キャストと、物語における関係を整理します。

主要キャラクターと声優一覧

キャラクター 声優・出演者 物語における役割
かぐや姫 朝倉あき 物語の主人公
捨丸 高良健吾 姫の幼少期からの交流相手
翁 地井武男 姫を竹から見つけ育てる
媼・語り 宮本信子 姫を育てる母親的存在
相模 高畑淳子 姫に貴婦人の作法を教える
女童 田畑智子 姫に仕える少女
斎部秋田 立川志の輔 姫の教育に関わる人物
石作皇子 上川隆也 姫への求婚者
阿部右大臣 伊集院光 姫への求婚者
大伴大納言 宇崎竜童 姫への求婚者
御門 中村七之助 姫に求婚する帝
車持皇子 橋爪功 姫への求婚者
北の方 朝丘雪路 車持皇子に関係する人物
炭焼きの老人 仲代達矢 物語を彩る登場人物

かぐや姫役・朝倉あきの繊細な表現

主人公のかぐや姫を演じたのは朝倉あきです。

本作で求められたのは、単に美しい姫君らしい声ではありません。

幼少期の無邪気さ、都での戸惑い、自由を失う苦しみ、そして月へ帰りたくないという悲しみまで、人生の変化を声で表現する必要がありました。

姫の成長に合わせて声の印象が変化していくことも、本作の見どころです。

捨丸役・高良健吾が担った人間的な感情

高良健吾が演じた捨丸は、姫の地上での記憶を象徴する人物です。

山里でともに過ごした時間は、姫にとって身分や財産とは関係のない自然な人間関係でした。

そのため、捨丸との関係は、月へ帰ることを拒む姫の心情を理解するうえでも重要な役割を担っています。

地井武男の翁役が作品に残したもの

翁役を演じた地井武男は、映画公開前の2012年に亡くなっています。

本作では、アニメーションの動きに合わせて声を収録する通常の手法とは異なり、先に声を録音するプレスコ方式が採用されました。

そのため、地井武男の収録済みの声を翁の演技として生かすことができました。

翁は姫を大切に思いながらも、自分が考える幸せを押しつけてしまう複雑な人物です。地井の声は、その愛情と不器用さを感じさせる重要な要素になっています。

久石譲の音楽が描く生命の輝き


本作の音楽を担当。オーケストラを中心とした音楽で、姫の成長や自然の風景、別れの場面を彩っています。

久石譲の音楽は、作品の感情を支える大切な要素です。

山里での暮らしを表現する曲から、都での華やかな場面、月からの迎えが訪れる終盤まで、音楽の変化が姫の心情と重なります。

サウンドトラックには「はじまり」「小さき姫」「生きる喜び」「山里」「絶望」「月の都」「別離」など、物語の流れに沿った楽曲が収録されています。

演奏は東京交響楽団が担当しました。

主題歌「いのちの記憶」と二階堂和美


シンガーソングライター。本作の主題歌「いのちの記憶」の作詞・作曲・歌唱を担当しています。

映画の主題歌「いのちの記憶」は、二階堂和美が作詞・作曲・歌唱を担当した楽曲です。

久石譲による劇伴とは異なる、歌声を中心にした温かみのある表現が特徴です。

本作のテーマである命の有限性、出会い、別れ、記憶といった要素とも深く結びついています。

さらに、劇中歌「わらべ唄」「天女の歌」は高畑勲と坂口理子が作詞し、高畑勲が作曲を担当しました。

映画の音楽は単に映像を盛り上げるためのものではなく、姫の人生を表現するもう一つの物語として機能しています。

【遺作の評価と2026年放送情報】高畑勲が残した最後の長編監督作品

高畑勲監督の遺作としての位置づけ

高畑勲は1935年10月29日生まれ。東映動画でアニメーション制作に携わり、『太陽の王子 ホルスの大冒険』などを手掛けた日本を代表するアニメーション映画監督です。

その後も『火垂るの墓』『おもひでぽろぽろ』『平成狸合戦ぽんぽこ』『ホーホケキョ となりの山田くん』など、幅広い作品を発表しました。

2018年4月5日、肺がんのため82歳で亡くなっています。

『かぐや姫の物語』は、監督として最後に完成させた長編映画となりました。

国内外で評価された芸術性

本作は2013年11月23日に公開されました。

その後、2015年には第87回アカデミー賞の長編アニメーション映画賞にノミネートされています。

受賞には至りませんでしたが、スタジオジブリの公式記録でも、この作品がアニメーション映画として高く評価されたことが紹介されています。

また、毎日映画コンクールのアニメーション映画賞やロサンゼルス映画批評家協会賞のアニメーション映画部門などでも評価を受けました。

2026年1月9日の金曜ロードショー放送情報

放送済み


『かぐや姫の物語』

金曜ロードショー・2026年1月9日放送

21:00〜23:54


日本テレビ系・ノーカット放送

スタジオジブリと日本テレビの番組告知によると、2026年1月9日(金)21時から23時54分まで、60分拡大のノーカット放送が実施されました。

同年1月2日には『千と千尋の神隠し』が放送されており、年始の2週連続ジブリ企画の2作目にあたります。

作品の基本情報は次のとおりです。

項目 内容
作品名 かぐや姫の物語
公開日 2013年11月23日
原案・脚本・監督 高畑勲
脚本 坂口理子
音楽 久石譲
主題歌 いのちの記憶
主題歌歌唱 二階堂和美
上映時間 約137分
配給 東宝
2026年テレビ放送 1月9日・21時〜23時54分

2026年11月2日現在、この1月9日の放送はすでに終了しています。今後の再放送日程については、金曜ロードショーの公式番組情報で確認する必要があります。

『かぐや姫の物語』はどんな人におすすめなのか

作品の評価を考える際には、鑑賞する人が何を求めているかも重要です。

特におすすめしたい人

- 手描きアニメーションの表現や作画技法に興味がある人。
- 日本の古典文学を現代的な視点で楽しみたい人。
- 登場人物の心理や人生の意味を深く考えたい人。
- 自然の風景や音楽をじっくり味わいたい人。
- 高畑勲監督の演出思想を知りたい人。

好みが分かれやすい人

- 明快な善悪の対立や冒険を中心に楽しみたい人。
- 常にテンポの速い展開を求める人。
- 最後にすべてが解決する幸福な結末を期待する人。

本作は約137分の長編であり、心理描写や自然の表現に多くの時間を割いています。

物語の展開だけを追うより、画面の線や色、音楽、人物の表情まで注意して見ると、作品の魅力がより伝わります。

【高畑勲監督と『かぐや姫の物語』】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:『かぐや姫の物語』の制作には何年かかりましたか?

約8年です。テレビ東京の作品特集では、制作期間8年、スタッフ700人以上、作画枚数24万枚という規模が紹介されています。

Q2:かぐや姫が月に帰る理由は何ですか?

物語の設定では、月の世界の住人である姫が地上に憧れたことが発端です。映画では、人間として生きる喜びや悲しみを知った姫が、地上に残りたいと願いながらも月へ帰る悲劇が描かれています。

Q3:かぐや姫の犯した罪と罰とは何ですか?

罪は、月の世界にいながら地上の人間世界に憧れたことと解釈できます。罰は地上に降りて人間として生きること、そして最後には地上で得た記憶や愛着を失って月へ戻ることに結びついています。

Q4:『かぐや姫の物語』の主題歌は誰が歌っていますか?

二階堂和美が歌う「いのちの記憶」です。作詞・作曲も二階堂和美が担当しています。

Q5:かぐや姫役と捨丸役の声優は誰ですか?

かぐや姫役は朝倉あき、捨丸役は高良健吾です。翁役は地井武男、媼役は宮本信子が担当しています。

Q6:2026年1月9日の金曜ロードショーは何時からでしたか?

21時から23時54分までの60分拡大枠で、ノーカット放送されました。2026年11月現在は放送終了しています。

Q7:『かぐや姫の物語』は高畑勲監督の遺作ですか?

監督として最後に完成させた長編映画です。高畑監督は2018年4月5日に82歳で亡くなりました。

まとめ:『かぐや姫の物語』が今も問いかける命の意味

高畑勲監督の『かぐや姫の物語』は、誰もが知っている昔話を、人間の感情と命の有限性を描く作品へと生まれ変わらせました。

制作期間8年、作画枚数24万枚という数字が示すように、作品の完成には膨大な時間と労力が費やされています。しかし、本当の価値は数字だけでは測れません。

鉛筆の線を生かした独自の作画、自然の美しさを表す淡彩表現、久石譲の音楽、二階堂和美の「いのちの記憶」。それらすべてが、姫の人生を支えています。

そして、物語の中心にあるのは「なぜ人間は生きるのか」という問いです。

月の世界には悲しみがありません。しかし、そこには地上で経験できる喜びや愛情もありません。

かぐや姫が地上に憧れた理由は、人間として生きることにこそ、かけがえのない価値があると感じたからではないでしょうか。

【プロの結論】

『かぐや姫の物語』を理解する最大のポイントは、月への帰還を単なる悲劇として捉えないことです。

姫が地上で経験した短い人生には、喜びも、後悔も、愛情も、別れもありました。そのすべてが、永遠の命にはない人間の生の輝きを表しています。

高畑勲監督が最後の長編映画に込めたこの問いは、2013年の公開から年月が経った2026年にも色あせていません。

昔話を知っている人にも、初めて映画を見る人にも、ぜひ一度、姫の表情や風景の一つひとつに注目して味わってほしい作品です。