伊藤園のAIタレントCMはどこまで本物?2026年最新動向と制作の裏側を徹底解説
伊藤園の「お~いお茶 カテキン緑茶」のCMを見て、出演している女性が実在する女優やモデルではなく、AIによって生み出された人物だと知り、驚いた人も多いのではないでしょうか。話題になったのは、2023年9月に登場した「未来を変えるのは、今!」篇です。約30年後の自分と現在の自分を同じ人物として描くため、生成AIを活用したAIタレントが起用されました。
しかし、CMのすべてがAIで作られていたわけではありません。顔は生成AIで作成し、身体には実際のモデルを撮影した素材を使用。さらにデザイナーやクリエイターが細部を調整しています。2024年の第二弾「食事の脂肪をスルー」篇では音声生成AIも導入されました。2026年には大谷翔平選手や十三代目市川團十郎白猿氏が出演する新しいCMも登場しています。制作会社、顔や声の生成方法、起用理由、費用、評判まで、公式発表と取材報道をもとに整理します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- AIタレントの正体:AI model株式会社が生成した、伊藤園のCM専用に制作されたオリジナルキャラクター。実在の有名女優ではありません。
- 制作の仕組み:顔は生成AI、身体は許諾を得たモデルの撮影素材を活用し、人間のクリエイターが調整するハイブリッド方式です。
- 2024年の進化:第二弾では音声生成AIを導入し、AIタレント自身が商品について語りかける表現を実現しました。
- 制作会社:AIタレントの生成はAI model株式会社、CMの企画・制作は東急エージェンシーが担当しました。
- 2026年の最新動向:お~いお茶の新作CMでは市川團十郎氏や大谷翔平選手を起用し、AIタレントを使用した2023~2024年の企画とは異なる表現を展開しています。
【話題の正体】伊藤園のAIタレントCMとは?2023年から始まった日本初の挑戦

伊藤園のAIタレントCMが大きな注目を集めたのは、2023年9月のことです。特定保健用食品「お~いお茶 カテキン緑茶」のリニューアルに合わせて公開された「未来を変えるのは、今!」篇に、AIで生成された女性が登場しました。
このCMの特徴は、単にAIで美しい女性を作ったことではありません。現在の自分と約30年後の未来の自分を、同じ人物として自然につなげた点にあります。
「未来を変えるのは、今!」篇のストーリー
CMでは、近未来的な街を背景に、白髪で年齢を重ねた女性が軽快に歩いて登場します。手には「お~いお茶 カテキン緑茶」。その後、女性は若々しい姿へと変わり、現在の自分と未来の自分がつながる演出が展開されます。
伝えたいメッセージは、将来も健康的で活動的な生活を送るために、今から健康習慣を始めようというものです。
伊藤園が2024年3月29日に公表した第二弾のプレスリリースでも、第一弾について「現在の人物と約30年後の未来の自分が別人に見えないように」表現することがAIタレント採用の目的だったと説明しています。
AIタレントの名前や正体は公表されている?
気になる出演女性の正体ですが、実在する女優やモデルの芸名ではありません。AIによって制作されたオリジナルのキャラクターです。
2023年11月のITmediaビジネスオンラインによる伊藤園広告宣伝部への取材では、このAIタレントには名前や正式な年齢設定が存在しないことが紹介されています。説明上、若い姿はおよそ30歳、白髪の姿はおよそ60歳として扱われていました。
つまり、特定の芸能人が年齢を変えて出演しているわけではなく、商品コンセプトに合わせて設計された架空の人物です。
また、CMで見た目が似ていると感じる実在の女優がいたとしても、それだけで本人がモデルになったとは判断できません。公式資料が示しているのは、生成AIで作った肖像を人間のクリエイターが調整したという制作方法です。
日本初という説明には根拠がある
東急エージェンシーとAI model株式会社は、このCMを日本初のAIタレント起用テレビCMとして紹介しています。
その根拠は、CM総合研究所の表現データベースです。2023年8月7日16時時点で、調査対象となった1,016,790件のCMの中に、AIタレントが出演するテレビCMは確認されなかったと説明されています。
なお、ここでいうAIタレントとは、AIで生成されたキャラクター設定を持ち、タレント活動を行うものという定義です。あらゆる種類のAI映像広告が世界で初めて作られたという意味ではありません。
【制作の裏側】伊藤園のCMはどこまでAI?顔・身体・声の生成方法を解説
このCMについて最も興味深いのは、AIだけで完成させた映像ではないという点です。
経済産業省が2024年7月に公開した「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」には、伊藤園のカテキン緑茶CMが広告産業における生成AI活用事例として掲載されています。そこには、顔、身体、背景、加齢表現、音声について、それぞれ異なる制作手法が記されています。
① 顔は生成AIで作成し、クリエイターが微調整
AIタレントの顔は、生成AIによって出力された肖像をベースにしています。
東急エージェンシーの公式説明でも、顔をAIで生成した後、デザイナーやクリエイターが微調整したことが明らかにされています。
つまり、画像生成AIが出力した最初の画像を、そのまま完成版として使用したわけではありません。
商品のイメージに合う健康的で活動的な女性というコンセプトに合わせ、人物の印象や映像としての自然さを人間が調整しています。
② 身体は実在モデルの撮影素材を使用
意外に思われるかもしれませんが、身体まで完全にAIで生成したわけではありません。
経済産業省のガイドブックによると、身体部分についてはベースとなるモデルを実際に撮影し、その素材を利用しています。撮影素材は許諾を得たうえで使用されています。
顔と身体を別々の方法で制作して組み合わせることで、AIによる人物表現と実写素材の自然さを両立させていたのです。
この仕組みを知ると、AIタレントという名称から想像する完全なデジタル人間とは、実際の制作方法が異なることが分かります。
③ 約30年後の姿は独自システムで制作
第一弾CMの重要な見せ場となるのが、若い女性から白髪の女性へと変化するシーンです。
経済産業省の資料では、AIタレントの老化イメージを作るために、独自にカスタマイズされたシステムを利用したと説明されています。
一般的な画像編集で顔にしわや白髪を追加するだけでは、同一人物の年齢変化を自然に見せるのは簡単ではありません。顔の特徴を保ちながら、年齢を重ねた印象へと変化させる必要があります。
このCMでは、健康的な未来を視覚的に伝えるという広告の目的に合わせて、若い姿と年齢を重ねた姿を制作しています。
④ 背景にも画像生成AIを活用
人物だけでなく、背景画像の作成にも画像生成AIが使用されました。
したがって、AIの役割は出演者の顔を作ることだけではありません。CM全体の世界観を構築する映像制作の工程にも及んでいます。
⑤ 2024年の第二弾では音声生成AIも導入
2024年4月4日から放映された「食事の脂肪をスルー」篇では、さらに新しい試みが加わりました。
それが音声生成AIです。
経済産業省のガイドブックには、第二弾CMでAIタレントの声にも音声生成AIを活用したと記載されています。
第一弾ではAIによる人物のビジュアル表現が中心でしたが、第二弾ではAIタレントが商品について語りかける構成へと発展しました。
ただし、使用した音声生成モデルの具体的な名称、学習用音声の出所、特定の声優の声を複製したかどうかといった技術的詳細は、公開資料からは特定できません。
AIによる音声生成を採用したという事実と、特定の人物の声を無断で複製したという話は、明確に区別する必要があります。
制作工程を整理すると
伊藤園のAI CMは、次のような複数の工程を組み合わせて完成しています。
- 人物のコンセプト設計:健康的・活動的・進歩的な女性像を設定
- 顔の生成:画像生成AIで肖像を制作
- 身体の制作:許諾を得たモデルの撮影素材を使用
- 年齢表現:独自システムで未来の姿を制作
- 背景制作:画像生成AIを活用
- 音声制作:第二弾から音声生成AIを活用
- 仕上げ:デザイナーやクリエイターが調整
さらに、経済産業省の資料によると、制作されたCM全体について、著作権などの権利に配慮し、画像検索などによる類似性の確認も行われました。
【関係者・年表まとめ】伊藤園、AI model、東急エージェンシーの役割と関係
伊藤園のAIタレントCMを理解するには、広告主、広告制作会社、AI技術の提供会社を分けて考えることが大切です。
インターネット上では「伊藤園がAIでCMを作った」という簡単な説明が目立ちますが、実際には複数の企業や専門家が制作に関わっています。
主要な関係者と制作上の役割
| 企業・関係者 | 役割 | 確認できる実績・情報 |
|---|---|---|
| 株式会社伊藤園 | 広告主・商品企画 | お~いお茶 カテキン緑茶のCMを展開 |
| 東急エージェンシー | CMの企画・制作 | 「未来を変えるのは、今!」篇を制作 |
| AI model株式会社 | AIタレントの生成 | オリジナルAIタレントを開発・提供 |
| モデル・撮影関係者 | 身体部分の撮影素材 | 許諾を得たモデルの撮影素材を使用 |
| デザイナー・クリエイター | 画像や映像の調整 | 生成された肖像や背景などを仕上げる |
| 経済産業省 | 事例の公的記録 | 2024年の生成AI利活用ガイドブックに掲載 |
| VFX-JAPAN | 映像技術分野の評価 | 2024年に第一弾CMが優秀賞を受賞 |
2023年から2026年までの主な出来事
2023年8月28日:伊藤園が生成AIを活用した「お~いお茶 カテキン緑茶」のパッケージデザインを発表しました。パッケージについても、AIの生成画像をそのまま完成品とするのではなく、人間のデザイナーが仕上げる制作方法が採用されています。
2023年9月:第一弾「未来を変えるのは、今!」篇が登場。AIタレントをテレビCMに起用する日本初の試みとして注目されました。
2023年11月:ITmediaビジネスオンラインが伊藤園広告宣伝部への取材を掲載。AIタレントの選定理由や制作期間、費用についての考え方が紹介されました。
2024年3月29日:伊藤園が第二弾「食事の脂肪をスルー」篇を発表しました。
2024年4月4日:第二弾の放映を開始。AIタレントの音声表現にも生成AIが活用されました。
2024年4月:第一弾がVFX-JAPANアワード2024の先導的視覚効果部門で優秀賞を受賞しました。
2024年7月:経済産業省の生成AI利活用ガイドブックに、伊藤園のCMが広告産業の具体的な事例として掲載されました。
2026年5月:「お~いお茶 純国産茶葉100%」篇が登場。十三代目市川團十郎白猿氏が出演しました。
2026年6月:大谷翔平選手のホームラン映像を集めた180秒の特別CMが公開されました。
このように、伊藤園のAIタレントCMは一度限りの話題づくりではなく、生成AIを広告制作に取り入れた事例として、企業や広告業界の資料にも記録されています。
【起用理由と制作費用】なぜ伊藤園は人間ではなくAIタレントを選んだのか
AIタレントを採用した理由を単純に「有名人より安いから」と考えるのは正確ではありません。
2023年11月11日のITmediaによる取材では、伊藤園広告宣伝部の上條裕介氏が、商品のターゲット層や広告の目的を踏まえた起用の背景を説明しています。
理由① 現在の自分と未来の自分を自然につなぐため
カテキン緑茶の広告で伝えたかったのは、健康的な未来を実現するために、今から生活習慣を意識してほしいというメッセージです。
しかし、15秒という短いテレビCMで、現在の女性と30年後の女性を別々の俳優で演じ分けると、視聴者に同一人物だと理解してもらう必要があります。
そこで、年齢の異なる姿を同じAIタレントとして設計する方法が採用されました。
理由② 30~40代の男性にも商品を知ってもらうため
ITmediaの取材によると、当時のカテキン緑茶の主な購入層は50~60代の女性でした。
一方、伊藤園は30~40代にも商品の魅力を伝えたいと考えていました。特に健康状態を意識し始める30~40代の男性への訴求を重視していたといいます。
そこで検討されたのが、CMに登場させる人物の性別です。
社内などでのアンケート調査では、男性を起用すると既存の女性ユーザーが自分向けの商品ではないと感じる可能性がある一方、女性が出演するCMであれば男性にも訴求しやすいという考え方が示されました。
最終的に、健康的で活動的な女性のAIタレントが選ばれています。
ショートカットの髪型にも理由があり、CMで動きのある演出を取り入れるため、活動的な印象を与えるデザインが採用されました。
理由③ ブランド専用の人物像を作れる
AIタレントの大きな特徴は、広告の目的に合わせて人物像を設計できることです。
実在のタレントの場合、本人のイメージや過去の出演歴、契約条件などが広告表現に影響します。
一方、AIタレントなら、商品が求める人物像に合わせて顔や年齢、表情、キャラクター設定を検討できます。制作途中で別の候補を出すことも比較的容易です。
伊藤園の取材では、AIモデルの候補を短期間で複数提案してもらえる点や、社内外の関係者の意見を取り入れながらブラッシュアップできる点がメリットとして紹介されました。
AIタレントの制作費用は本当に安い?
ここは誤解されやすい部分です。
2023年10月30日の関西テレビの報道では、制作関係者への取材をもとに、有名タレントの出演契約料が数千万円から数億円に上るケースに対し、AIタレントの場合はナレーション担当者への費用なども含めて数百万円程度と紹介されました。
ただし、2023年11月のITmediaの取材では、伊藤園側は今回のCMの総制作コストについて、著名タレントを起用する場合とそれほど変わらなかったのではないかと説明しています。
この違いは、出演料とCM全体の制作費を分けると理解できます。
- 出演契約に関する費用:AIタレントには有名人の出演契約とは異なるメリットがある
- AIモデルの開発・調整:候補の生成や修正に人間の作業が必要
- 映像制作費:撮影、編集、演出、制作スタッフなどの費用が発生する
- 音声・仕上げ費用:第二弾では音声生成AIなどの制作工程も加わる
ITmediaの取材では、第一弾CMの総制作期間は約5カ月、そのうちAIタレントの検討に1~2カ月を要したと紹介されています。
つまり、AIを使えばCMが自動的に格安で完成するというわけではありません。むしろ、品質を高めるために人間が何度も調整すれば、総制作費が大きく下がらない場合もあります。
【評判と受賞実績】AIタレントCMは視聴者にどう受け止められた?
伊藤園のAIタレントCMが注目された背景には、映像の自然さと、AIがテレビ広告の出演者になったという新鮮さがありました。
SNSや視聴者の反応は驚きが中心
ITmediaの2023年11月の取材では、伊藤園側がCM公開後の反応について、AIでここまでできるのかという驚きの声が目立ったと説明しています。
インフルエンサーが取り上げたことも、話題の広がりに影響したとされています。
関西テレビが2023年10月に放送した街頭取材でも、出演女性がAIだと知って驚く人々の反応が紹介されました。実在する女優だと思っていた人や、AIであることに気づかなかった人もいました。
一方で、話題性が高まることと、商品の購入につながることは別の問題です。ITmediaの取材では、伊藤園側も当時、AIタレントそのものの印象が強く、商品とAIタレントを一緒に認識してもらうことが課題として残っていると説明していました。
この点は広告として興味深いところです。新技術のインパクトが強すぎると、宣伝したい商品よりも制作手法のほうが記憶に残る可能性があります。
VFX-JAPANアワード2024で優秀賞を受賞
伊藤園のAIタレントCMは、映像技術の分野でも評価されました。
東急エージェンシーの2024年2月29日の発表によると、「未来を変えるのは、今!」篇は、一般社団法人VFX-JAPANが主催するVFX-JAPANアワード2024の先導的視覚効果部門で優秀賞を受賞しています。
同賞は、日本国内のCG・VFX映像作品を部門別に集約し、会員投票によって優れた作品を選出するものです。
ここで注意したいのは、受賞したのがCMの映像表現に関する部門であることです。商品の売上ランキングや、AIタレントの人気投票で受賞したわけではありません。
AIによる人物表現と人間のクリエイターによる調整を組み合わせた映像制作が、視覚効果の分野で評価された実績として捉えるのが適切です。
AIタレントと人間の見分け方
伊藤園の事例から分かるのは、現在のAIタレントを見た目だけで確実に判別するのは難しいということです。
特に、生成AIで作った顔に実際のモデルの身体を組み合わせた場合、人物の一部は実写素材でありながら、別の部分はAI生成という構成になります。
そのため、次のような確認方法が役立ちます。
- 公式のCM紹介を確認する:企業のニュースリリースや制作会社の発表にAIタレントの記載があるか確認する。
- 制作会社の実績を見る:AIモデルの提供会社や広告制作会社が公開している制作事例を確認する。
- 映像のクレジットを確認する:出演者、モデル、AI生成、音声制作などの担当範囲を調べる。
- 技術的な違和感だけで判断しない:目や口元、指などの不自然さは参考にはなるものの、決定的な証拠にはならない。
特に伊藤園のCMでは、顔と身体の制作方法が異なるため、顔だけを見て実写かAIかを判断する方法には限界があります。
【2026年最新】伊藤園のCMはどう変わった?AIタレント企画との違い
2026年11月現在、伊藤園のCM展開を見ると、2023~2024年のAIタレント企画とは異なる方向性も確認できます。
ここで大切なのは、「お~いお茶 カテキン緑茶」と「お~いお茶」ブランド全体のCMを区別することです。2023~2024年のAIタレント企画はカテキン緑茶の商品CMであり、2026年に登場した新作は主にお~いお茶ブランド全体を訴求する広告です。
2026年5月18日:「純国産茶葉100%」篇
伊藤園は2026年5月14日、新TV-CM「お~いお茶 純国産茶葉100%」篇の放映を発表しました。
出演者はブランドアンバサダーの十三代目市川團十郎白猿氏です。
CMでは、三番叟の衣裳を着た團十郎氏が五穀豊穣を願う舞いを披露し、後半では歌舞伎十八番「暫」の力強い演技を見せます。アニメーションで描かれた茶畑を背景に、日本茶の伝統と将来への発展を表現した内容です。
中心となるメッセージは、国内で育てられ、国内で加工された茶葉のみを使用する「純国産茶葉100%」へのこだわりです。
2023年のCMがAIタレントによって健康的な未来を表現したのに対し、2026年のCMは実在する歌舞伎俳優の演技を通じて、日本茶文化の価値を訴求する構成になっています。
2026年6月12日:大谷翔平選手の特別CM
2026年6月12日には、大谷翔平選手のホームラン映像をまとめた180秒の特別CM「お~いお茶 大谷翔平ホームランボトル『記録じゃない、歴史だ。』篇」が公開されました。
2025年シーズンに大谷選手が放ったレギュラーシーズンの55本と、ポストシーズンの8本を合わせた全63本のホームランシーンをつないだ映像です。
AIタレントによる架空の人物表現ではなく、実際のスポーツ映像と大谷選手の実績を中心に構成されています。
2023~2024年と2026年のCMを比較
両者の違いは、単にAIを使うかどうかだけではありません。広告で何を伝えたいのか、その目的に合わせて出演者や映像表現を選択している点が重要です。
- 2023年:AIタレントを使い、現在と未来の自分を一人の人物として表現。
- 2024年:AIタレントの音声生成も取り入れ、商品の機能性を説明。
- 2026年5月:市川團十郎氏の歌舞伎を通じて、日本茶の伝統と国産茶葉へのこだわりを表現。
- 2026年6月:大谷翔平選手の実際のホームラン映像で、スポーツの記録と感動を伝達。
2026年のこれらのCMについて、伊藤園の公式紹介資料には2023~2024年と同じAIタレントを起用したという説明はありません。ただし、映像制作のあらゆる工程でAIを使用していないと断定できるわけではありません。
少なくとも、公式に紹介されている出演者と広告の中心的な表現は、AIタレント企画から実在する人物の出演や実際の映像を重視する方向へと変化しています。
【プロの結論】伊藤園のAI CMから分かる生成AI広告の可能性と課題
伊藤園の取り組みが示したのは、AIが人間の出演者を単純に置き換えるという話ではありません。
広告の目的に合わせて人物を設計し、AIが得意な工程と人間が得意な工程を組み合わせることで、新しい映像表現を実現できるということです。
AIタレントを起用するメリット
AIモデルには、実在するタレントにはない特徴があります。
- ブランドのコンセプトに合わせて人物像を設計できる。
- 年齢や外見の異なるバリエーションを制作しやすい。
- 出演者本人のスケジュール調整に左右されにくい。
- 複数のビジュアル案を比較しながら制作を進められる。
- 実在のタレント本人の私生活や契約更新に関わるリスクを抑えられる。
一方、AIタレントの制作にも、肖像権、著作権、素材の利用許諾、ブランドイメージの管理といった課題があります。
また、AIが生成した映像をそのまま使用すればよいわけではなく、品質管理や権利確認のために人間の専門家が関わる必要があります。
どのような企業にAIタレントが向いている?
AIタレントの活用が向いているのは、ブランド独自のキャラクターを作りたい企業や、年齢・外見などを変化させる演出が必要な広告です。
例えば、化粧品、アパレル、健康食品、飲料、ECサイトなどでは、商品やブランドのイメージに合わせた人物を継続的に活用するメリットがあります。
一方、実際の体験談や専門的な知識、本人の競技実績、長年の信頼関係が広告の中心となる場合には、人間の出演者を起用する価値が大きくなります。
大谷翔平選手のように、本人の実績そのものが広告の価値になっているケースは、AIタレントでは代替しにくい領域です。
AI広告で最も重要なのは人間の編集力
伊藤園のCM制作で見逃せないのは、生成AIが制作のすべてを担ったわけではないという点です。
顔の微調整、実写素材との組み合わせ、映像の仕上げ、権利関係の確認など、多くの工程で人間の専門性が必要でした。
これはAI広告全般に共通する重要なポイントです。AIは大量の案を短時間で作ることが得意ですが、その中からブランドの目的に合う表現を選び、視聴者に伝わる形に仕上げる仕事は、人間の判断に大きく依存します。
伊藤園の事例は、AIと人間が競争するだけではなく、それぞれの得意分野を組み合わせる広告制作の可能性を示したものです。
【伊藤園のAI CM】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:伊藤園のAIタレントは誰がモデルになっているのですか?
A1:特定の有名女優が出演しているわけではありません。AI model株式会社が生成したオリジナルのAIタレントです。ただし、身体部分には許諾を得た実在モデルの撮影素材が使用されています。
Q2:伊藤園のAIタレントCMは本当に全部AIで作られたのですか?
A2:いいえ。顔や背景などに生成AIを活用していますが、身体には実際のモデルの撮影素材を使用し、デザイナーやクリエイターが微調整しています。完全にAIだけで制作したCMではありません。
Q3:2024年の「食事の脂肪をスルー」篇では声もAIですか?
A3:はい。経済産業省の生成AI利活用ガイドブックには、第二弾CMで音声生成AIを使用したと記載されています。ただし、具体的な音声生成モデルや学習データの詳細は公表資料から確認できません。
Q4:AIタレントを制作した会社はどこですか?
A4:AIタレントを生成したのはAI model株式会社です。CMの企画・制作は東急エージェンシーが担当しました。
Q5:伊藤園のAI CMはVFX-JAPANアワードを受賞したのですか?
A5:はい。2023年の「未来を変えるのは、今!」篇が、2024年のVFX-JAPANアワードで先導的視覚効果部門の優秀賞を受賞しています。
Q6:AIタレントを起用するとCM制作費は安くなりますか?
A6:出演契約に関する費用やスケジュール調整の面ではメリットがあります。ただし、伊藤園の第一弾CMでは、AIモデルの検討に1~2カ月、全体の制作に約5カ月を要しました。総制作費が必ず安くなるとは限りません。
Q7:2026年の伊藤園のCMにもAIタレントは出演していますか?
A7:2026年に公式発表された主な新作では、5月の「純国産茶葉100%」篇に十三代目市川團十郎白猿氏、6月の特別CMに大谷翔平選手が出演しています。これらは2023~2024年のAIタレント企画とは異なる広告展開です。
まとめ:伊藤園のAI CMは人間とAIの共同制作が生んだ新しい広告表現
伊藤園の「お~いお茶 カテキン緑茶」CMは、2023年に日本初のAIタレント起用テレビCMとして注目されました。
その制作方法は、顔を生成AIで作り、身体には許諾を得たモデルの撮影素材を使用するという、人間とAIの技術を組み合わせたものでした。さらに、独自システムによる加齢表現や背景画像の生成、2024年の第二弾での音声生成AIの導入など、段階的に表現の幅を広げています。
制作を担ったAI model株式会社と東急エージェンシーの取り組みは、VFX-JAPANアワード2024の優秀賞にもつながりました。
一方、2026年の伊藤園は、市川團十郎氏や大谷翔平選手といった実在する人物を起用し、日本茶の伝統やブランドの価値を訴求しています。AIタレントと実在の人物は、どちらか一方が優れているという関係ではありません。広告の目的に応じて適切な表現方法を選ぶことが大切です。
伊藤園のAI CMから読み取れる最大の教訓は、生成AIの進化そのものよりも、AIの能力を理解した人間がどのように企画し、調整し、視聴者に伝えるかが広告の完成度を左右するということです。今後のテレビCMでは、AIタレントと実在の出演者がそれぞれの強みを生かしながら、さらに多様な表現を生み出していくことが期待されます。
主な根拠資料
- 東急エージェンシー公式発表(2023年10月・2024年2月)
- 経済産業省「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」(2024年7月)
- 伊藤園公式発表「食事の脂肪をスルー」篇(2024年3月29日)
- ITmediaビジネスオンライン・伊藤園広告宣伝部への取材(2023年11月11日)
- 関西テレビ・AIタレントCMの取材報道(2023年10月30日)
- 伊藤園公式発表・2026年CM情報(5月14日、6月12日)